「ひみつ道具」とは、藤子・F・不二雄先生による漫画とそのアニメ版の『ドラえもん』シリーズに登場する、未来の道具です。
「タイムマシン」で22世紀からやってきた子守ロボットのドラえもんが所有している道具なので、現代では考えられない効力を発揮します。
それは時空を超越したり、人の心を操ったり、天候を制御したり、運勢を変えたり……。とても科学技術で実現しているとは信じがたい、まるで魔法のような存在です。
藤子・F・不二雄先生は自作のSF要素を「すこしふしぎ」だと称しました。科学的でない代わりに、夢と笑いと意外性に満ちています。
そんなひみつ道具をドラえもんは使って、勉強も運動も苦手なさえない小学生の野比のび太をよりよい人生へ導いていきます。
ひみつ道具を用いて収入を得ることは法律で制約されています。
「タイムマシンを、金もうけのためなんかに使っちゃいけないんだ。法律できまってるんだ」
てんとう虫コミックス『ドラえもん』第5巻「宝くじ大当たり」より
「あくまで個人的に使うための道具なんだ。金もうけなどもってのほか」
「金もうけしたら、ばく大な罰金をとられるんだぞ」
てんとう虫コミックス『ドラえもん』第37巻「なんでもひきうけ会社」より
もちろん現代ではまだ制定されていない、未来の法律です。それなら現代なら罰せられないかというと、そうもいきません。タイムトラベルに関する犯罪を取り締まるタイムパトロール[1]がいるからです。
でもちょっと待って! それならドラえもんは!? 過去に長期滞在して、のび太の人生に介入する行為は、れっきとした歴史改変です。普通に考えれば許されません。
なぜ、ドラえもんの長期にわたる歴史改変は例外的に黙認されているのか。深読みしがいのある、『ドラえもん』最大の謎です。
タイムパトロールとは、藤子・F・不二雄先生の作品世界におけるタイムトラベルに関する犯罪を取り締まる組織です。
のび太が「スペアポケット」を探してドラえもんの寝床をあさっていると、妙なゴミ箱を見つけました。それはドラえもんをひみつ道具が捨てるための「四次元くずかご」だったのです。
そしてドラえもんはこう言いました。
「ぼくのだす道具は一回限りの使い捨てが多いんだ。安いからね」
てんとう虫コミックス『ドラえもん』第45巻「四次元くずかご」より
さらに藤子・F・不二雄先生はこう書き記しています。
あまり高価な道具は買えないので、安い使用料で貸してもらいます。ドラえもんは三分の二くらいを、このレンタルで間に合わせているのです。(中略)試供品をただでくれたりして、ドラえもんも助かっているようです。
ビッグ・コロタン『ドラえもん最新ひみつ道具大事典』「はじめに」より
じつはひみつ道具の大半がレンタルで、残りは試供品や安価な使い捨て品だったのです。
ところでドラえもんのお金の出どころはというと、現代の野比家からもらっているお小遣いやお年玉[2]です。前述したようにひみつ道具でお金を稼ぐのは違法です。だからドラえもんはすくないお小遣いでなんとかやりくりしています。
お小遣いは第9巻収録「無人島の作り方」で、お年玉は第8巻収録「見たままスコープ」でもらっている様子を確認できます。
ドラえもんの誕生日は2112年9月3日です。遠い未来? いや、もう100年を切っています。それだけに、実現したひみつ道具が現れ始めました。
たとえば位置情報を把握する「トレーサーバッジ」です。
これは一目瞭然、タブレットPCとGPS追跡タグです。タッチパネルではなく物理ボタンで操作するあたりはむしろ古めかしさすら感じます。数あるひみつ道具の中で、もっとも完全な形で実現したものでしょう。
タブレットPCなんて影も形もなかった時代にこれを発想した藤子・F・不二雄先生の先見の明に驚かされます。
誰でもライブ配信できる「インスタントテレビ局」もまた実現しました。
今やライブ配信は特別なことではありません。スマホ一つでいつでもどこでも簡単に配信できます。しかもネット配信は「インスタントテレビ局」の電波ジャックよりも洗練されています。
そもそも電波ジャックは違法です。そんなデタラメさがひみつ道具の真骨頂なので、実現を阻む障壁は科学技術ではなく、良識でしょう。
藤子・F・不二雄先生が1996年に亡くなられてからもアニメ版は継続され、アニメオリジナルのひみつ道具がいくつも創作されました。
当サイト『もしも道具』では藤子・F・不二雄先生による原作漫画と監修作品を聖典としているため、先生の没後に追加・変更された設定は扱っていません。