今度の日曜日に高井山へ紅葉を見に行こう、としずかちゃんと出木杉くんが話してるのを聞いて、のび太は居ても立っても居られなくなりました。
ドラえもんのひみつ道具があれば、今日にでもしずかちゃんと高井山へ行って帰ってこられる。そう考えたのび太が“スペアポケット”目当てに押入れをあさると、代わりに見つけたひみつ道具が“四次元くずかご”です。
ドラえもんの四次元くずかごは、無尽蔵に物を捨てられるゴミ箱です。
中は四次元空間になっています。その特異性によって、投入口よりどれだけ大きな物でも空間がゆがむようにして中へ入ります。
捨てた物を戻したいときは、投入口から手を入れてつかみ出します。目当ての物は“四次元ポケット”のように手探りで自動的に選び取れます。
たかがゴミ箱と侮るなかれ、四次元くずかごがあれば、日々の暮らしがすこし楽になるといっても過言ではないでしょう。
ゴミを分別不要でいくらでも捨てられる、つまりゴミにまつわる日々の雑事から解放されます。これは結構な負担軽減です。
ゴミ分けやゴミ出しは「ちゃんとした生活」の基盤を成す一要素です。それを四次元くずかごで軽率に済ませてしまうと、ともすればだらしない生活態度を招くかもしれません。
殺人による死体を遺棄することが、四次元くずかごのもっとも悪辣な使い道でしょう。常識にとらわれた捜査をしている限りは死体を発見できないはずです。
ただし殺人行為そのものを隠蔽できるわけではないので、完全犯罪とはいかないでしょう。
ゴミをいっさい出さないのは不自然です。よその家のゴミ出し状況をつぶさにチェックするような煩わしい近隣住民がいたなら、その人から怪しまれるかもしれません。
それでも四次元くずかごの存在を疑われるとは考え難く、おそらくゴミ屋敷だと疑われるのが関の山です。
四次元くずかごこれ一つで、どんなゴミ処理場より多くのゴミを処分できます。リサイクルしないゴミのすべてを四次元くずかごへ投入しても満杯にはなりません。
なんなら放射性廃棄物、いわゆる「核のゴミ」ですら捨ててしまえます。
しかし大規模なゴミ処理に用いるとなれば四次元くずかごの存在を公にしないとならないし、仕組みを明らかにして安全性を確かめねばなりません。
未来から丸投げされた未知の技術を正しく公共利用するのに越えなくてはならないハードルはあまりにも高い。余計な混乱を避けるためにも公にせず個人で独占したほうが、むしろ世のためかもしれません。
もらっても使い道に困るひみつ道具が多い中、四次元くずかごは「ゴミ捨て」という日々の営みに活躍する堅実なものです。逆に言えば、ありふれた日常をひっくり返すようなわくわくする破天荒さはありません。
収納用品に転用すれば可能性は一気に広がるけれど、それならポケット型で取り回しの良い四次元ポケットを初めから選んだほうが話が早い。
というわけで、もしもドラえもんのひみつ道具を一つもらえるなら、四次元くずかごの優先度は星
つです。