大長編『のび太の海底鬼岩城』での話。待望の夏休みを迎えたのび太といつもの面々は、みんなで出掛けるキャンプを海にするか山にするかで大騒ぎ。
多数決を分かつ最後の一票を託されたドラえもんは、「海底の山へ登ればいいんだ」という一石二鳥の妙案を出しました。
のび太たちに「陰気くさい」「水圧でペシャンコになる」と口々に否定されたけど、もちろんドラえもんには深海でも快適に過ごせるひみつ道具の当てがありました。それが“テキオー灯”です。
ドラえもんのテキオー灯は、あらゆる環境に人体を適応させる光線銃です。
地球以外の星にも人類が住めるように開発されました。これの光線を浴びると、どんな環境の星でも地球上と変わりなく活動できるようになります。
温度、重力、圧力、光、大気など、環境を形成するすべての要素に適応します。効果の持続時間は、最後に光線を浴びてから24時間です。
もちろん地球上でも効力を発揮します。
ほかの星へ行かずとも、この地球にも足を踏み入れることが困難な極地があります。光が一切届かない洞窟、有毒ガスが噴き出す火山地帯、高い水圧がかかる深海……。
「たとえ火の中、水の中」を額面どおり実現するテキオー灯を使えば、地球上のどこでも身一つで探検できます。冒険家や研究者にとっては垂涎の的でしょう。
特に水中で効力を余すことなく発揮するので、マリンスポーツにもうってつけです。
我々が日常生活を送る生活圏だって、いつなんどき災害によって身を脅かす環境に陥るかわかりません。テキオー灯さえ効いていれば、火災や洪水などに巻き込まれても命が助かります。
毎日かかざずテキオー灯を浴びておくことは、いざというときの備えとして抜群に有効です。おまけに室温や湿度を気にする必要もなくなるから快適に過ごせます。自宅ではエアコンいらずで省エネ。風邪の予防にもなります。
危機に備えたい慎重派にも、冒険に出たい大胆派にも。日々の暮らしから、非日常まで。幅広くカバーするテキオー灯は、もらって損のない逸品です。
テキオー灯は人体の安全を守るひみつ道具だから、直接的な危険は及びません。
ただしその効果は最後に浴びてから24時間後に消失します。生命居住不可能領域で活動する際は、定期的にテキオー灯を浴び直して、効果時間を延長することを忘れてはいけません。
効果時間があることを伝えないで人にテキオー灯を使わせて、そのまま深海へ向かわせたら……。
とはいえテキオー灯は割と有名だから効果時間を知っている人も多いだろうし、ひみつ道具の存在を相手に明かさなくてはならない難点もあります。計画的な悪用は難しいでしょう。
テキオー灯を浴びても見た目はなにも変わりません。
しかし人が生きていられるはずのない極地で活動していたら、それが超常現象であることは一目瞭然です。そういった極地には基本的に人目がないとはいえ、油断は禁物です。
いずれ我々人類もSF作品のようにほかの星へ進出する日が来るでしょう。その夢の実現に立ちはだかる大きな壁の一つをテキオー灯によってクリアできます。
テキオー灯の効果は悪用度が低く、また現代社会を根底から覆すようなものでもありません。存在をおおやけにしても大きな混乱は招かないはず。組織的に運用すれば、人類が次の段階へ進む足がかりになり得ます。
将来の宇宙進出を念頭に置いて、まずは深海探査から。人類の可能性が広がります。
出先のエアコンが効き過ぎていて、夏なのに寒くて上着を羽織ったり、冬なのに暑くて上着を脱いだりなんてのはよくあること。そういった煩わしさから解放されて、いつでも快適にすごせるのはテキオー灯の身近なメリットです。
更には環境に対して無敵になれるから、非常時の生存確率が跳ね上がります。ドラえもんたちのように深海へ冒険に行かなくたって、この日常で日々役立つのはポイント高し。
というわけで、もしもドラえもんのひみつ道具を一つもらえるとしたら、テキオー灯の優先度は星
つです。