『ドラえもん』屈指の傑作回「さようなら、ドラえもん」(てんとう虫コミックス6巻収録)は、最終回[1]になる予定だったと伝えられています。
結果的には後編に当たる「帰ってきたドラえもん」(7巻収録)が描かれ、ご存知のとおり『ドラえもん』は続くことになりました。この復活劇の鍵であり、また最強のひみつ道具[2]と目されているのが「ウソ800」です。
「八百」は数字の800を表すだけではなく、数が多いことを意味します。さらに「八百万」は限りなく数が多いことを意味します。転じて「嘘八百」は嘘だらけのこと。または、まったくのデタラメであることです。
なぜ「七百」でも「九百」でもなく「八百」なのかについては諸説があり、意見が分かれています。
ドラえもんの「ウソ800」は、口にしたことが全部嘘になる飲み薬です。
これを飲んだ人がなにか言うと、それが嘘になるように現実を操作します。たとえば「晴れている」と言えば雨が降り、「雨が降っている」と言えば晴れになります。
「帰ってきたドラえもん」でのび太が使ったときの様子からすると、用量は丸底フラスコ容器の約半分です。よって1本で2回分です。
ちなみに「ウソ800」はドラえもんの形をしたケースに入っていました。これは「ウソ800」のケースではなく、「開けた人がそのときに必要としているものが出てくるひみつ道具」の可能性があります。
「なんでもできる最強のひみつ道具」との呼び声高い「ウソ800」ではあるけれど、その効力はあくまで「話したことが嘘になる」だけです。どんな結果だろうと嘘になってさえいれば、効果は成立しているわけです。
そんなんで本当になんでもできる!? ひみつ道具は良くも悪くもいい加減。あまり信用できたものではありません。
とはいえのび太は「ウソ800」で天気を変え、ジャイアンが母ちゃんに叱られるように仕向け、ドラえもんのタイムトラベルを禁じた「大人の事情」を打ち破りました。
注目すべきはドラえもんをのび太のもとから引き剥がした事情を解決したこと。のび太は事の詳細をなにも知らなかったのに!
込み入った問題を全貌も分からぬまま、過程もなにもすっ飛ばして一発で解決するだなんて、ほかのひみつ道具では真似できない芸当です。
もしもあなたがしがらみに縛りつけられ苦しんでいるなら、それを解決できる「ウソ800」は確かに最強のひみつ道具かもしれません。
「ウソ800」の万能性は不明瞭なものの、判明している範囲だけでも十分凄い。真に万能で神のごとくあらゆることを実現できるひみつ道具だった場合の有用性は、類似品の「ソノウソホント」のページで考えをめぐらしています。
「ウソ800」には、副読本による「有効時間は75分」という後付け設定があります。これが藤子・F・不二雄先生の監修を受けた正式な設定なのかは不明です。
いつかは効き目が切れないと、しゃべったことが死ぬまで嘘になり続けて困るから、とうぜん有効時間があるだろう、ということでしょう。
なんにせよ、有効時間の有無やら残量の補充やらの懸念事項は「ウソ800」の効力でいかようにも変えられるはずなので、問題にはなりません。
てんとう虫コミックス『ドラえもん』第7巻「帰ってきたドラえもん」より
- ドラえもん
- 「ははあ、『ウソ800』を飲んで……、ぼくが、もう帰ってこないといったのか」
- のび太
- 「うれしくない。これからまた、ずうっとドラえもんといっしょにくらさない」
一度は離ればなれになったドラえもんと再び一緒に暮らせるようになったのび太が感情を爆発させる感動的なセリフです。
まだ「ウソ800」の効き目が続いているため、本音とは逆のことを言っていることが、のび太の思いの強さをより際立てています。
この「望む結果とは逆のことを言う」というのは直観に反していて、ややこしい。それをとっさに、しかも感情が高ぶっている状態でこなしたのび太って意外と地頭がいいのでは?
のび太の頭脳はさておき、「ウソ800」を飲んだ際は下手にしゃべれません。なにをしたいのか、それを実現するためにはどう言えばいいのか、入念に考えておかないと危険です。
つい本音が漏れたせいで希望と逆の結果になって、フォローしようと慌てて間違ったことを言って収拾がつかなくなって……。そんな混乱した事態を招かないように気をつけましょう。
万能系ひみつ道具はあらゆることに応用可能。とうぜん犯罪にも使えます。けれど自分の得することをいくらでも実現できる「ウソ800」をわざわざ相手の損することに使う人はいない……とも言えないのが人間の恐ろしさ。
もしも「ウソ800」が完全無欠の万能性をもっているなら、全人類の幸も不幸も、生かすも殺すも、すべて思うままです。そんな強大な力を手にしたら、いったい人はなにを実現するのでしょうか。
のび太の言葉とはあべこべに、雨が降り、スネ夫は野良犬に追われ、ジャイアンは母ちゃんに叱られました。それが奇跡的な偶然ではなく、本当に「ウソ800」の効果だったという証拠はどこにあるのでしょう。
今日この天気が自然のものなのか、どこかの誰かが「ウソ800」で変えたものなのか。それを確かめるすべを私たち現代人は持ち合わせていないのです。
「ウソ800」が完全に万能だったなら、その革命性は言わずもがな。万能性が不完全だとしても、すくなくとも人の行動を操れることは確定しています。人々を変えれば社会も変わる。「ウソ800」を使えば、世界を変えられます。
あれも欲しい、これも欲しい。あれもやりたい、これもやりたい。どんな厄災も遠ざけ、どんな幸福も引き寄せる。そんなあらゆる欲望をかなえられる(かもしれない)「ウソ800」や「ソノウソホント」に惹かれないわけがありません。
その力はあまりにも強大すぎて、人間が手にするのはおこがましい。それでも、やっぱり……。というわけで、もしもドラえもんのひみつ道具を一つもらえるなら、「ウソ800」の優先度は星 つです。
当サイト的「欲しいひみつ道具ランキング番外編」入りです。
「ウソ800」の万能性が完璧で、神にも等しい力だったとしても、あなたはこれが欲しいですか?
この記事の「ゆっくり解説」版