もしもドラえもんのひみつ道具を一つだけもらえるとしたら、どれが欲しい?
そんな質問に「“四次元ポケット”! だってどんなひみつ道具でも取り出せるから」という答えが返ってくることがあります。
けれどもそれは、四次元ポケットを少しばかり誤解していて……。
ドラえもんの四次元ポケットは、いくらでも物が入るポケットです。
中は際限なく広がる四次元空間になっています。現空間とは大きさの概念が異なるため、ポケットの口より大きな物でも伸び縮みして自由自在に出し入れできます。
どれだけ大量に収納してあっても、頭の中のイメージを読み取って選別する機能によって、手を入れただけで希望の物を選び取れます。ただし、慌てるなどしてイメージが錯そうしていると正しく選別されません。冷静さが必要です。
ほかにも、衣類に吸着する機能や、生きものが中で生存できるように空気が充満している特徴があります。
そして四次元ポケットは、あくまで収納用品です。ドラえもんのひみつ道具は四次元ポケットから湧いて出てきたわけではありません。ドラえもんが少ないおこづかいをやりくりして買い集めたものです。
つまり「ひみつ道具を一つだけ」という条件でもらった場合は、残念ながら中身は空っぽなんです。じゃあ役に立たないかというと……。
部屋を片付けなさいとお母さんに叱られたのび太は、勉強机から本棚まで、ありとあらゆるものを四次元ポケットに入れてしまいました。そこまでしなくても、収納に悩まされなくて済むのは確かです。
四次元ポケットなら「あれはどこにしまったっけ?」と困ることもありません。クローゼットに押し込むのとは、わけが違います。文字どおり「次元が違う」使い勝手です。
並べて眺めたいコレクション性があるものだけを残して、後は全部四次元ポケットにしまえばすっきり。もうインテリアを邪魔するものはありません。
外出も手ぶらでオッケー。あらかた四次元ポケットに入れてあるから忘れ物とは無縁です。どんなに買い物したって手荷物は増えません。行きだけじゃなく、帰りも手ぶらのままです。らくちん!
「手ぶらで引越し」なんて離れ技もやってのけます。
貴重品などの大切なものを四次元ポケットで持ち歩けば、万が一空き巣に入られても被害を最小限に抑えられます。自宅が災害に見舞われたときも同様です。
その代わり四次元ポケットただ一点にリスクが集中してしまうので、これに関しては危険性と背中合わせでもあります。
あらゆる所有物を入れておく場合は、四次元ポケットをなくすことが、すなわちすべてを失うことになります。
「四次元ポケットを盗まれた」と訴えても、警察が相手にしてくれるはずがありません。泣き寝入りすることになるでしょう。
エピソード「四次元ポケット」(コミックス第16巻収録)では、お腹に四次元ポケットを付けたのび太が転んで、中の物を全部ぶちまけてしまいました。どうやら勢いよく逆さまにすると、中身がこぼれ出てしまうようです。
四次元ポケットの仕組み上、ポケットの口さえ閉っていれば中身はこぼれないはず。中身が不意にこぼれることを防止する方法を試行錯誤して見つけておくできです。
「無限に収納できる」という効力の弊害は、所有物を捨てる決断力が鈍ることです。なにもかも溜め込めば、――たとえ外目には見えなくても――それはゴミ屋敷です。四次元ポケットがあっても、いらない物は処分したほうがいいでしょう。
身一つで持ち歩くことがありえない大きな物、例えば自動車を四次元ポケットに入れて盗むとしたら? 犯行現場に手ぶらで出入りした人物が犯人だなんて、疑われもしないでしょう。
輸入が禁止されている品も、飛行機で悠々と持ち帰れます。物どころか人間でさえ秘密裏に不法入国させられます。
武器類のチェックを四次元ポケットで免れれば、破壊活動にもつながります。
「人間も入れられる」という点を突き詰めると、もっと恐ろしい犯罪に応用できてしまいます。四次元ポケットは、悪用度がなにげに高いひみつ道具です。
家電量販店の店頭で冷蔵庫を買って、「持って帰ります」と店員の前で四次元ポケットに入れるわけにはいきません。
「手ぶらでショッピング」と前述したけれど、秘匿性を保つためにダミーのバッグを用意したほうが賢明です。冷蔵庫のような大きなものは、持ち帰りを諦めて配送を頼むしかありません。
手ぶらで海外旅行へ行くと入国審査で悪目立ちするなど、気をつかうシチュエーションは多々あります。外出時に使うなら、結局ある程度の手荷物は避けられません。
自宅で秘密の倉庫として使うなどの運用方法ならば、秘匿性に問題はないでしょう。
「いくらでも物が入れられる穴だって!? ならゴミを簡単に処理できるじゃないか! そうだ、いっそのこと放射性廃棄物を……」
というのはテレビ番組『世にも奇妙な物語』の「穴」です。星新一先生のショートショート「おーい でてこーい」が原作だけあって秀逸な話です。
なにせ『世にも奇妙な物語』だから、察しのとおり、この穴の行く末はろくなことになりません。
四次元ポケットとは似て非なるものだけど、「誤った使い方をするとろくなことにならない」という点は同じことでしょう。
際限なく広がるもう一つの空間の存在は、間違いなく革命的です。そういった存在に触れるときは、いつだって慎重さが求められます。
工夫を凝らして収納して、いらなくなったものは随時処分しても、それでもやっぱり少しずつ物はあふれたりします。そんなとき、四次元ポケットがあったらこの上なく便利なこと間違いなし。
ほかのひみつ道具が一つも入ってなくたって十分に魅力的です。それでも「どうしてもひみつ道具が全部ほしい」という人は、特集「ただ一つのひみつ道具を使って全部のひみつ道具を手に入れるには」をお読みください。
というわけで、もしもドラえもんのひみつ道具を一つもらえるなら、四次元ポケットの優先度は星欲しいもひみつ道具ランキング」入りです。
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