さまざまな異世界を冒険する『大長編ドラえもん』シリーズでは、その行く先々でのび太たちは異世界人とのファーストコンタクトを果たします。当然ながら彼らとは言葉が通じません。そこで出番となるひみつ道具が“ほんやくコンニャク”です。
漫画『ドラえもん』の本編では「ほんやく」が漢字だったりカタカナだったりと表記ゆれが見受けられます。『大長編ドラえもん』シリーズでは「ほんやくコンニャク」に統一されているため、当サイトではこの表記を採用しています。
ドラえもんのほんやくコンニャクは、食べるとどんな言語にも通じるようになるこんにゃくです。
ほんやくコンニャクが効いているあいだは、あらゆる言語が母国語に翻訳されて聞こえます。そして自分が話す言葉は自動的に相手の母国語になります。リスニングだけではなく、文章も翻訳して読み取れます。
その効果は我々人類の言語のみならず、地球外生命体やロボットの言語にまで及びます。
効果の持続時間は不明。ほんやくコンニャクと同様に食べることで発動する“アンキパン”の効果は、成分を排泄するまで持続します。この前例に倣って、ほんやくコンニャクの効果も体内にあるあいだだけ持続するものとします。
ちなみに食べたものを消化して排泄するまでに掛かる時間は、およそ24時間から72時間とのことです。
大長編『ドラえもん のび太の大魔境』で、ほんやくコンニャク一つのことをドラえもんが一人分だと発言したことから、一回の用量は丸ごと一つだと推定されます。
ドラえもんからもらえる数量は、1ダース(12丁)とします。
大長編『ドラえもん のび太と鉄人兵団』では、食事できないロボットの頭にほんやくコンニャクを乗せただけで効果が生じました。
けれどもそのことを考慮に入れると、ほんやくコンニャクの効果や使い方が根本から覆ってしまいます。そこで本稿では、頭に乗せるのは特例として考慮しません。
はた迷惑な物ばかりのひみつ道具にしては珍しく、ほんやくコンニャクの効果は普通に便利です。
マルチリンガルは仕事に役立つスキルの上位だし、遊びにおいても映画や歌や小説などを言語を問わずに楽しめます。ほんやくコンニャクを用いれば、自分の世界がうんと広がります。
更には、失われた文明が使っていた未解読文字を解読するなどの学術的な成果もあげられます。ほんやくコンニャクは私的用途にとどまらず、文化の発展にも寄与できるでしょう。
ほんやくコンニャクの唯一にして最大の難点は消耗品なこと。「ドラえもんのひみつ道具を一つだけもらえる」という条件なので補充はできません。使用回数の少なさが有用性の歯止めになります。
脳に強力な作用を及ぼすのは考えてみれば恐ろしいことです。しかし、薬物の影響を大きく受ける成長期であるのび太が繰り返し摂取しても大丈夫だったので、副作用については心配ありません。
翻訳がもたらす犯行はないでしょう。
ほんやくコンニャクはその名のとおり、見た目はこんにゃくそのものです。人に見られても、それがドラえもんのひみつ道具だと気づかれはしません。
問題は翻訳効果です。はたから見ると、いきなりあらゆる言語を使えるようになったり、かと思えば次の日には使えなくなってたりするわけです。そんな具合では、なにかがおかしいと誰からも思われてしまいます。
ほんやくコンニャクで得た翻訳能力を知人の前で使うのは控えるべきでしょう。
また、未解読文字を解読して公表すれば当然注目を集めます。一体どうやって解読したのか、なにかうまい言い訳が必要です。
古代エジプト語のヒエログリフおよびデモティック、ならびにギリシア語の三種類の文字で同じ文言が刻まれた石板が、1799年にエジプトのロゼッタで発見されました。
ロゼッタ・ストーンと呼ばれるこの石板が糸口になってヒエログリフが解読されたのです。
残る未解読文字を余すことなく解読できるほんやくコンニャクは、人類の歴史を紐解く鍵となるでしょう。歴史的大発見とされるロゼッタ・ストーンをはるかにしのぐ革命度です。
もしもドラえもんからほんやくコンニャクをもらったら、でたらめか未知の言語かで見解が分かれているヴォイニッチ手稿を読んだり、海外の音楽を聴いたり、それからそれから……。
仕事の幅も、遊びの幅も、両方一気に広がるなんて、正に夢のひみつ道具です。けれども消耗品なのではそれもつかの間の夢に終わってしまいます。
というわけで、もしもドラえもんのひみつ道具を一つもらえるなら、ほんやくコンニャクの優先度は星
つです。