1000種類以上もあるひみつ道具の中で、『ドラえもん』に一番多く登場したのが“タケコプター”です。なにかにつけて活躍するタケコプターは、ひみつ道具の象徴だといえるでしょう。
それにもかかわらず、「もしもひみつ道具を一つだけもらえるならどれが欲しい?」と聞かれて「タケコプター」と答える人は意外といません。
なかなか捨てがたいひみつ道具たと思うのですが、はてさて。
連載初期は「ヘリトンボ」とも呼称されていました。アニメ版第2作第1期(大山ドラ)において名称が「タケコプター」に統一されてから、漫画版も追従して統一。単行本に収録されていた過去作品における表記も修正されました。
現在でも藤子・F・不二雄大全集『ドラえもん』では、「ヘリトンボ」と表記されていた当初のバージョンを確認できます。
ドラえもんのタケコプターは、体(主に頭頂部)に装着すると、自由自在に空を飛べる竹とんぼ形ひみつ道具です。
スポーツが苦手なのび太でも最初から使いこなせたことから、コントロールするのに身体能力は必要ないことがうかがい知れます。
また、使用中も髪が乱れないことや、動作音が軽いことから、プロペラによる揚力ではなく、反重力(もしくはそれに似た未知の原理)で飛行していると推定されます。
頭頂部に装着して使ってもドラえもんたちが首を痛めないのも、この力によって体全体が支えられているからでしょう。
空を飛べば交通網なんてお構いなし。信号や渋滞などの煩わしさから解放されます。道路が整備されてない場所へ行くのも簡単。しかも目的地まで一直線に行けるから、どこへだって文字どおり一っ飛びで到着です。
そういった実用性はもとより、身一つで自由に空を飛べる娯楽性がタケコプターの心髄でしょう。 想像してみてください、タケコプターで飛ぶことを。こんなわくわく――高所恐怖症の人はぞわぞわだろうけど――は、そう味わえません。
“どこでもドア”があるのにドラえもんたちがわざわざタケコプターを使って移動するのは、この気持ちよさゆえでしょう。
唯一にして致命的なデメリットは「目立ちすぎる」ことです。タケコプターは現代にはまだ存在しない未知の推力で飛んでいます。そんな未来のテクノロジーを人前にさらすわけにはいきません。
気ままに飛べる状況が限られている分だけ有用性は目減りします。
なにせ身一つで空を飛ぶわけですから、なにかにぶつかったり、落下したり、常に危険と隣り合わせ。正に命がけです。おまけにバッテリーが途中で切れる可能性まであるんですから……。
いわばエクストリームスポーツです。スリルがあるからこその興奮。この場合の危険性は、必ずしもマイナス点ではありません。
高層階の住居だと、ベランダ側の戸締りがおろそかになっている場合が多いようです。そういった通常なら侵入が考えられないためセキュリティが甘くなっている場所へ、タケコプターなら簡単にたどり着けます。
うっかり見つかっても、飛んで逃げればそうそう捕まらないでしょう。ただし人間が空を飛んでいたらとにかく目立ちます。その点で悪用にはかなり不利です。
「もしもドラえもんのひみつ道具を一つだけもらえるなら」という与太話でタケコプターが不人気なのは、やはり「目立ちすぎる」という欠点のせいでしょう。昼間に飛べば人目は避けられません。
「空飛ぶ人間」はSNS映えこの上ないから、目撃した人はかなりの割合で撮影するでしょう。ネットで拡散された動画や画像から身バレするのは時間の問題です。
アメコミヒーローのような顔まで被るスーツを用意して、せめて顔バレだけは防ぐべきです。
生身なので航空機の監視システムなどには探知されないでしょう。人目に見えにくい夜間なら最低限の秘匿性は保てます。
タケコプターを航空機メーカーなどに提供すれば、テクノロジーが解析されて、車が宙に浮く時代が一足早く現実になるかもしれません。それってかなり革命的。
しかしそれは歴史を大きく改変することになるため非推奨です。
それにこんな軍事向きのテクノロジーを時代を超えてもたらすのは、不穏な歴史への分岐路になり得る誤った選択でしょう。
数多いとんでもないひみつ道具とは違って、タケコプターは「空を自由に飛べる」という正統派です。これは人類の夢だといっても過言ではありません。
このさい秘匿性の低さには目をつぶってしまおう。というわけで、もしもドラえもんのひみつ道具を一つもらえるなら、タケコプターの優先度は星
です。この記事の「ゆっくり解説」版