夜空を走る一筋の光を見たのび太は「UFOだ!」と大騒ぎ。けれどしずかちゃんたちに「ニュースになっていた、人工衛星が落下した光だ」とバカにされてしまいます。
そのことをドラえもんに愚痴ると、未来の世界の人工衛星事情を教えてくれました。なんでも何百万個もの人工衛星が軌道を回っていて、ドラえもんも持っていると言うのです。それが“自家用衛星”です。
ひみつ道具の自家用衛星は、ホームユースの人工衛星です。手のひらに軽く収まるほど小型で、機能が違う4機種がラインナップされています。
どんなに厚い雲でも透き通して下界を撮影して、その映像を“衛星テレビ”(後述)へ送信するスパイ衛星です。屋根などの遮蔽物を透視して建物の中も見られます。ズームインすると地上にある書籍の文字が読めるほど高性能です。
下界の音声を送受信する人工衛星です。偵察衛星で映している場所の音声を衛星テレビで聞いたり、こちらからそこへ音声を送ったりできます。ある種の衛星電話として機能します。
気象を操る人工衛星です。これを“天気調整マシン”(後述)で操作すると、自宅の敷地だけに雪を降らすなど、どこでも好きな場所の天気を自由に変えられます。
角ばったプラスチックの弾を打ち出す人工衛星です。衛星テレビで攻撃目標を指定して、携帯型で無線式の発射ボタンを押すと即座に着弾します。
たとえプラスチック製だとしても、軌道上から射出された弾が地表に到達するとかなりの威力になるはずです。しかしカクミサイルの威力は未知の技術で抑えられているらしく、人の頭に当たってもケガをせずに痛みを感じる程度しかありません。
これら4つの人工衛星をコントロールする装置もセットになっています。
自家用衛星を軌道上へ打ち上げる、全長1mほどの使い捨て型ロケットです。
各人工衛星のコントロールとモニターを担うデバイスです。偵察衛星が捉えた映像の写真をプリントアウトする機能も備わっています。
正式名称は不明。アニメ版でドラえもんがこれを「テレビ」と呼んでいたことから、本稿では便宜上「衛星テレビ」と呼称しています。
気象衛星用のコントローラーです。天気を変更したい場所を音声で指定したのち、晴れ・雨・雪・曇り、4つのうちいずれかのボタンで決定します。
漫画版ではこのコントローラーの名称は明示されません。「天気調整マシン」という名称はアニメ版より。
現存する人工衛星と同様に、ドラえもんの自家用衛星にも寿命があります。コミックス第17巻に初登場した際は、一日も持たずに流れ落ちました。大長編『ドラえもん のび太の大魔境』に再登場した際は、最低でも数日は持ったようです。
本稿では、自家用衛星が軌道を維持できる期間を72時間とします。またロケットは4機もらえるものとします。
自家用衛星は、地球上のあらゆる場所を観測できて、さらには天気まで自由に操れる、まさに夢のマシンです。しかし寿命が短い消耗品なので、「もしもドラえもんのひみつ道具を一つだけもらえるとしたら」という条件には向いていません。
わずか数日の観測期間では短すぎて、偵察衛星とエコー衛星で有意義な成果をあげるのは難しいでしょう。天気を任意に変更することに関しては、使用期限のない“お天気ボックス”が気象衛星より勝っています。
自家用衛星は優秀なひみつ道具だけれども、人工衛星を補充できない状況下での有用性は限定的です。
もしも打ち上げたロケットが航空機に当たってしまったら……、と心配になるけれど大丈夫。自家用衛星は文字どおり自家用です。未来の家庭で普通に使われている道具なのだから、そういった安全対策は十分にとられているはずです。
ロケットの発射もドラえもんとのび太のすぐ目の前で行っています。しかも一度は部屋の中から発射しました。これらのことも自家用衛星の安全性を物語っています。
自家用衛星の偵察衛星とエコー衛星は、要するに超高性能のスパイ衛星です。自宅に居ながらにして地球上のどこでも盗撮盗聴し放題。遮蔽物を透過して建物の中ですら観察できるのだから、個人や企業の秘密をいくらでものぞけます。
ただやはり3日間という限られた時間で暴ける秘密は高が知れています。最高機密などには手が届かず、結局は低俗なのぞき見がせいぜいでしょう。
カクミサイル発射衛星は嫌がらせに最適です。プロスポーツの試合中の選手に当ててプレイを妨害するなど、かなり悪質な使い方が想定されます。
火を噴き、煙を吐いて飛んで行くロケットはかなり目立ちます。しかし原作漫画で自家用衛星のロケットが打ち上がる絵には音を示す書き文字がないので、音は静かなようです。よって打ち上げる時間と場所を選べば、なんとか秘匿性を守れるでしょう。
現代のスパイ衛星をはるかに上回る性能を有する偵察衛星とエコー衛星は、諜報活動に改革をもたらす存在です。ただし軌道を保持できる期間が短いため、本格的に運用するとなると改良や量産化が必要です。
この二つの人工衛星は明らかに既存のテクノロジーの延長線上にあります。ほかのひみつ道具とは違って、解析して量産するのは十分に可能でしょう。
しかし、国民にとって必ずしも好ましい結果につながるとは思えません。自家用衛星を国家機関に明け渡すことが賢明な選択かは疑問が残ります。
自家用衛星はなにげに登場回数の多いひみつ道具です。特に大長編『ドラえもん のび太の大魔境』ではキーアイテムになりました。それだけに夢があります。人跡未踏の遺跡を探したりなどなど……。
けれどもこの限られた期間で成果を上げられる気がしません。というわけで「もしもドラえもんのひみつ道具を一つだけもらえるとしたら」という条件下における自家用衛星の優先度は、星
つです。