とっておいたどら焼きをのび助に半分食べられてしまったドラえもん。悔しさのあまり珍しく自分のためにひみつ道具を取り出しました。
そう、それこそが、あの伝説的なキャラを輩出した、「きこりの泉」です。
ドラえもんの「きこりの泉」は、イソップ寓話の『金の斧、銀の斧』を模した泉です。
これになにかを投げ入れると、それと同じ種類のより良いものを手にした女神ロボットが現れて、「あなたが落としたのは、この■■■ですか」と尋ねてきます。正直に答えるとそれがもらえて、嘘をつくとなんにももらえません。
ただし、正直に答えた場合も元のものは返してくれません。『金の斧、銀の斧』とは違って、結果的には交換したことになります。
泉は特殊な空間になっていて、道具自体は平らな敷物です。柔らかく、使わないときは四つ折りにたためます。
「きこりの泉」を使って、ドラえもんは食べかけのどら焼きを手つかずの特大どら焼きに、のび太はボロボロの野球グローブを新品に、それぞれ交換しました。どちらも申し分のない交換です。
交換してもらったものを更に「きこりの泉」へ投げ入れることを繰り返せば、際限なくグレードを上げられます。食べかけの食品の交換を繰り返せば、どれだけ食べてもなくなりません。
もはや道理に外れた便利さです。「交換の繰り返しはできない」という隠しルールがあったとしても、十分に便利です。
唯一の問題点は、一度投げ入れたものは基本的には取り戻せないこと。女神ロボットの考える「より良いもの」が、こちらの思惑と一致するとは限りません。むやみやたらに交換するのはやめましょう。
「きこりの泉」で交換できる対象は物品だけにとどまりません。なんと人間まで交換できる! うっかり「きこりの泉」に落ちたが最後、交換対象として女神ロボットに引きずり込まれて抜け出せなくなってしまいます。
現にジャイアンが「きこりの泉」に水没しました。その後どうなったのかは不明です。おそらくドラえもんがひみつ道具を使って救出したのでしょう。自力で脱出するのは不可能だと思われます。
とはいえ要は落ちなければいいだけの話。腰よりも高い場所に設置して使うなど、注意を払えば危険は避けられます。
ジャイアンが落ちた「きこりの泉」から、いつもと変わらず女神ロボットが現れました。「あなたが落としたのは、このきれいなジャイアンですか」
「きれいなジャイアン」
連載後期(第36巻に収録)に一度登場しただけの「きこりの泉」がこれだけ有名なのは、きれいなジャイアンのインパクトゆえでしょう。
普段のジャイアンを暗に「きたないジャイアン」だとするこのブラックさは、藤子・F・不二雄先生ならではです。
そしてついには「藤子・F・不二雄ミュージアム」に可動式オブジェが展示されるほどの人気キャラになりました。
ツーショット撮影するための行列ができるほどの人気。
『ドラえもん』屈指の爆笑エピソードだけど、当のジャイアンにしてみればたまったもんじゃありません。「きこりの泉」に人を突き落すのは、笑えない悪用です。
「きこりの泉」は、人前で使う必要がなく、使わないときは折りたたんで収納しておけます。保管場所に気をつけて、私物を交換する用途にとどめれば、世に知れることはないでしょう。
政治家を片っ端から「きこりの泉」へ投げ入れたら、きたない政治家がきれいな政治家になって、今より世の中がよくなるかもしれません。
それはともかく、人を交換できるだなんて革命的というほかありません。
私物をより上質なものに交換できるのは、もう単純にうれしいことです。使えなくなったものも、使わなくなったものも、どんどん交換したい。
一つ留意点として、なにかをより良い(だろうと思われる)ものにするひみつ道具には「デラックスライト」や「進化退化放射線源」もあります。
「デラックスライト」は元に戻すことができるし、「進化退化放射線源」は時代を超越した変化をもたらします。これらより「きこりの泉」に価値を見いだせるか、一考の余地があります。
ということで、もしもドラえもんのひみつ道具を一つもらえるなら、「きこりの泉」の優先度は星
つ。「きれいなジャイアン」を生み出した、記憶に残るひみつ道具として、当サイト的「欲しいひみつ道具ランキング番外編」入りです。
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