ジャイアンにひどい目に遭わされたのび太がひみつ道具を使って仕返しする。なんてのは『ドラえもん』における鉄板の展開です。そう考えるとのび太とジャイアンは意外とお互いさまかもしれません。
それはさておき、そんな仕返しに使われたひみつ道具の一つ“ころばし屋”は、原作漫画には一度しか登場していないのに、キャラ立ちした存在感で有名な人気者です。
ドラえもんのころばし屋は、人を転ばせることを請け負うロボットです。
卵形で、サイズも鶏卵と同程度。スーツにサングラスとハットを合わせた殺し屋風情の外見をしていて、手には超小型の拳銃を持ち、背中には硬貨の投入口があります。
10円の依頼料を投入口へ入れて標的を名指しすると始動します。標的がどこにいてもすぐさま居場所を探知して追跡し、標的に直面すると「ニヤリ」と笑って任務を遂行します。
転ばせる手段は拳銃です。ころばし屋の拳銃が発射するのは実弾ではなく、“空気砲”や“空気ピストル”と同様に空気の塊(かたまり)だと推測されます。その威力は人を転ばせるには十分で、いとも簡単に大人をくるりとさかさまにしました。
標的を3度転ばせると任務完了、その場で機能停止します。また、キャンセル料として100円を入れて取り消しを指示した場合も任務を終了して機能停止します。
いったいなんのために人を転ばせるのかというと、どうやらころばし屋は仕返しを目的としたひみつ道具のようです。殺し屋を雇うわけにはいかないけれど、なにかすこしでもやり返したいときに雇います。要は子供のケンカです。
子供じみている上に、安全性や秘匿性に問題がある(後述)のでは、特別な有用性は見いだせません。
背が低くて、体重が軽くて、体が柔らかい子供のうちは、転んでも大したケガにはなりません。しかし年をとるにつれて転倒のリスクは高まっていきます。
高齢者が転んだ拍子に骨折や靭帯損傷などを負って、治療中に筋力が弱ってそのまま体が不自由になってしまうのはよく聞く話です。
若い人でもうまく受け身を取れるとは限りません。硬い床に頭を打ちつけてしまうと、クモ膜下出血を発症するおそれがあります。そのときには大丈夫でも、数か月後に突然発症する事例もあるので、CTスキャンによる検診が推奨されています。
(ころばし屋はさておくとしても、もしも頭を強く打ったなら、面倒くさがらずに精密検査を受けましょう)
大人の(もちろん場合によっては子供でも)転倒は甘くみると危険です。軽い気持ちでころばし屋を雇ったばかりに、人を殺してしまうかもしれません。
人を転ばせる危険性を踏まえると、ころばし屋を使うことはすなわち悪行でしょう。
とはいえ、任務を完了すると機能停止してその場に残ってしまうころばし屋は、秘匿性が無いに等しいので悪事には不向きです。
ギシギシと音を立てながら歩き、ダギュンと大きな発砲音を出し、任務を完了するとその場で止まってしまうのだから、ころばし屋に秘匿性はまるで期待できません。
物体を透明にするひみつ道具の“透明ペンキ”を塗りたいところですが、「もしもドラえもんのひみつ道具を一つだけもらえるとしたら」という条件下ではそれも無理な話。ころばし屋を人知れず使える見込みはないでしょう。
名前を聞いただけでその人の居場所をまたたく間に探知する能力は現代のテクノロジーをはるかに超越しています。テロリストの居場所を探知させれば、ころばし屋は対テロの秘密兵器になり得ます。
「殺し屋」をもじった名前がつれられているだけあって、ころばし屋は思いのほか物騒なひみつ道具です。所有欲をそそるキャッチーなデザインだから使用せずとも飾っておくだけでもいいけれど、それならフィギュアで十分。
不用意にケガをさせて警察沙汰になるのは御免だというわけで、もしもドラえもんのひみつ道具を一つもらえるなら、ころばし屋の優先度は星
つです。