ママがおやつに出してくれたイチゴがちっちゃくて、のび太はがっかりしました。これじゃ物足りない! そこでのび太がドラえもんに借りたひみつ道具が“ビッグライト”です。
ドラえもんのビッグライトは、あらゆる物体を大きくできるライトです。
これとは逆に物体を小さくする“スモールライト”については、元のサイズに戻す解除光線を出せることと、約3日後に効果が切れることが大長編『のび太の宇宙小戦争』で明かされています。
しかしことビッグライトになると、悪魔からもらった“デビルカード”を使って体が縮んでしまったのび太を元に戻すのにこれを使ったり(1)、これで大きくしたものを元に戻すのにスモールライトを使ったり(2)しました。
これらの事例から、「ビッグライトの効果は永続的」かつ「ビッグライトは解除光線を出せない」と推定されます。
(1)第22巻「デビルカード」
(2)第31巻「改造チョコQ」
ドラえもんからビッグライトをもらったぞ! よし、さっそく大きくしよう! ――ってなにを?
実際問題、大きくしたいものってそんなにありません。
のび太にならってイチゴを大きくして食べる? でも食感が変われば味の感じ方も変わります。大きくした食べ物は文字どおり「大味」になってしまうでしょう。
テレビを大きくして大画面にする? でも大きくなった電源プラグはコンセントに挿さりません。アンテナケーブルだってつながりません。配線が必要な家電は全滅です。
人工物は意図あってそのサイズに作られているのだから、大きくすることでより良くなるものなんてほんの一握りです。
じゃあレアメタルや貴金属を大きくする? でも「大きくなる」と「増える」は違います。大きくなった資源をはたしてそのまま原材料に使えるのでしょうか。
ビッグライトには効力を解除する機能が備わっていないから、「一時的に大きくする」という柔軟な運用もできません。
あまり深いこと考えずに、「デカい!スゲー!」と面白がるのがビッグライトの正しいたしなみ方でしょう。
原作漫画から読み取れる限りでは、ビッグライトはいかにも漫画的な、あらゆる面で都合のいい巨大化を実現するようです。量子力学的な不都合はおそらく生じないでしょう。
問題はビッグライトの効力を打ち消す手段が現代にはまだ存在しないことです。スモールライトや“タイムふろしき”が発明される22世紀の未来まで待たないと元に戻せません。
誤って自分がビッグライトの光を浴びてしまった、なんてことになったら目も当てられません。ビッグライトは慎重に取り扱いましょう。
ビッグライトの単純かつ凶悪な悪用は勝手に誰かを大きくすることです。その人は残りの人生を巨人として過ごさなくてはなりません。
突如として現れた巨人に人々はいったいどのような態度をとるでしょう。好奇の目にさらされ、疎んじられ、恐れられるはずです。
たとえ善意が悪意を上回る結果になったとしても、本人が望まぬ巨人化なんて許されません。
走行中の電車にビッグライトを照射するのも非常に悪質です。車輪がレールとかみ合わなくなって脱線事故になります。どれだけの死傷者が出ることか……。
ビッグライトはさまざまな惨劇を招く悪魔の光にもなり得ます。
ビッグライトの見た目はただの懐中電灯だし、光線は日光の当たる場所ならあまり視認できません。しかし大きなものはなんであれ目立つから、ビッグライトを使えば否が応でも人目を集める結果になります。
ビッグライトで大きくした物体の強度や質量はどう変化しているのか。ことによっては、巨大な建造物の建造方法に技術革新が起こります。これからの宇宙開発に目覚ましい成果をあげていくことでしょう。
物体が大きくなるとは一体どういうことなのか。現代の科学知識では理解しようのない現象です。物質の根本的な成り立ちに手を加えるのだから、禁断の効力にも思えます。
ビッグライトで大きくしたが最後、ほかのひみつ道具がなければ二度と元に戻せないというリスクもあるし、「なんか楽しそう」程度の気持ちで手を出すのは早計です。
というわけで、もしもドラえもんのひみつ道具を一つもらえるなら、ビッグライトの優先度は星
つです。