『ミクロの決死圏』『アントマン』……、「物体の大きさを変える」ことを題材とした物語は時代を越えて創作されてきました。『ドラえもん』にもまた物体の大きさを変えるひみつ道具がいくつも登場します。
なかでも「スモールライト」は繰り返し使われて、ついには大長編『ドラえもん のび太の宇宙小戦争』という大騒動につながりました。
ドラえもんが重宝しているひみつ道具なだけあって、「スモールライト」にはいろいろな使い道がありそうです。さて、もらったらなにをしようか。
ドラえもんの「スモールライト」は、物体の大きさを小さくする懐中電灯です。これの光線が当たった物体は、照らされているあいだどんどん小さくなります。元の大きさに戻す解除光線も出せます。
対象物の一部に光線を当てるだけで全体に効果が及ぶので、形のバランスが崩れてしまうことはありません。「人に照射すると、身に着けている服なども同じ割合で小さくなる」といった具合に、とても都合よくできています。
これで小さくしたゾウをドラえもんは片手で軽々と持ち上げました。大きさだけではなく、質量も小さくなるようです。
解除光線を当てなくても、有効時間を過ぎるとひとりでに元の大きさに戻ります。その有効時間はおよそ3日間です。
「スモールライト」に有効時間があることは、大長編『ドラえもん のび太の宇宙小戦争』で初めて明言されました。それ以前にも、初期の傑作エピソード「ぞうとおじさん」で、元の大きさに自然と戻ることが示唆されています。
物体を小さく、そして軽くできる「スモールライト」を使えば、あらゆる物を省スペースに収めて運べます。
大きい家具も重たい家電も、家財を残らずバッグに入れて、一人で引っ越し! なんて芸当も朝飯前です。車で出かけてもコインパーキング要らず。車だって小さくして携帯できます。
いやでもしかし、現代の常識から外れた「物体の大きさを変える」なんていう超常のテクノロジーを人前で使うわけにはいきません。自宅の中で使う引っ越しはともかく、人の行きかう路上で車に使うのはNGでしょう。
そうなると用途が限られます。有効時間があるから長期の収納にも不向きです。問題のない用途でも、収納や運搬に関して究極の使い勝手を誇る「四次元ポケット」にはかないません。
そう考えると、やはり「スモールライト」の本領は人間を小さくすることでしょう。
自分が小さくなると、周りのすべてが相対的に大きくなります。それでドラえもんたちは、好きな食べ物をお腹いっぱい食べたり、牛乳風呂に入ったり、ラジコンに乗ったりしました。
「食べ物の大きさが変わると食感や味のバランスも変わっちゃう」とか、「本物の車を普段から運転してるから別に」とか現実的なことは言いっこなし。
「いつもの世界なのに、まるで違う世界」を素直に面白がれる人なら、こびとを体験することは極上の娯楽になるでしょう。
小さな物は紛失しやすいし、壊しやすい。「スモールライト」で小さくしたら、元の状態のときより取り扱いに注意が必要です。
こびとになるときは周囲の状況を確認してからにしましょう。普段は見過ごしているなんでもない物事が、こびとには脅威になります。
たとえば愛猫。こびとになったあなたの姿がネコの狩猟本能を掻き立てて、狩られてしまうかも! 外出なんてもってのほか。カラスに襲われたり、人に踏みつぶされたり、命の危険がいっぱいです。
「こびとになる」というチャレンジは、かなりの冒険であると肝に銘じましょう。
車やバイクを小さくしてポケットに入れる……。自動車窃盗団の手に「スモールライト」が渡ったら、街頭から人気車があらかた消え去るでしょう。
「スモールライト」の悪用で非道の極みは人に使うことです。
こびとにすれば人目につかずに拉致できます。こつぜんと消えた「神隠し」といわれるでしょう。虫けらのように踏み潰すなんて世にも恐ろしいことも……。死体は燃えるゴミに出せば、有効時間の切れる前に灰と化します。
有効時間を逆手にとった残虐な悪用方法も考えられます。
なにか大きくて硬い物、たとえば大型家電の粗大ゴミをゴマ粒サイズに小さくして、二日半ほど寝かせます。それを食事に忍び込ませたら、食べた人は直視できないような凄惨な死に方をするでしょう。
倫理観が欠如している人が「スモールライト」を手に入れないことを祈るばかりです。
こびとは「伝説の生き物」というSNSでバズる格好のネタです。目撃されたが最後、写真を撮られて拡散間違いなし。人目につかないほど小さくなる? 肉食の昆虫に食べられますよ!
こびとになっての外出は、命の危険だけではなく、身バレの危険もつきまといます。
人前で「スモールライト」を使うのはもちろんご法度。その劇的な効果を目にすれば、それが超常的な存在であることは明白です。どこで誰が見てるかわかりません。出先で使うのが難しいひみつ道具です。
もしも時を越えて「スモールライト」が現代にもたらされたら、世界はどう変わるのか。
人が生きていくためには食糧やエネルギーなどの資源が必要です。そういった資源の消費が、こびとになれば少なく済むでしょう。
「限りある貴重な資源を守る」という名目で「人類こびと化計画」が発動。元の大きさでいることが許された“上級国民”と、こびとになった一般人に分かれ、世界は上級国民がこびとを支配するディストピアと化す!
おっと、妄想がすぎました。なんにせよ、たった1個の「スモールライト」だけで社会を変革してそれを維持するのは、有効時間が仇となって厳しいでしょう。
「スモールライト」で人を小さくするリスクはとても高い。ドラえもんたちが気軽にこびとになれるのは、ほかのひみつ道具によって身の安全を守れるからです。
物品を小さくするのだって有効時間切れに気をつけないと大変なことになりかねません。
「スモールライト」をもらったら、能力バトル漫画の「物体を小さくする異能」の使い手になった気持ちで、頭を働かせて使いましょう。後先を考えず、その場のノリで使うのは負けフラグです。
うまく使えばリターンは大きいけれど、ほかのひみつ道具の補助がないとリスクも高い。というわけで、もしもドラえもんのひみつ道具を一つもらえるなら、「スモールライト」の優先度は星 つです。
「スモールライト」と対をなすひみつ道具が「ビッグライト」です。「ビッグライト」はその名のとおり、物体を大きくします。
「スモールライト」と同様に物体を小さくするひみつ道具が「ガリバートンネル」です。こちらは人間を小さくするのに便利な作りになっています。