てんとう虫コミックス第4巻に収録されたエピソード「海底ハイキング」では、太平洋の海底を横断する冒険に挑んだのび太ために数々のひみつ道具が用意されました。
それらのひみつ道具は、第6巻の巻末付録「ドラえもん百科」では“海底ハイキングセット”の名称でセットとして紹介されています。
当サイト『もしも道具』では、セットはまとめて一つのひみつ道具として扱っています。
しかし海底ハイキングセットは、初出したときにはセットの表記がなく、のちに単体で登場する物も含まれています。また『ドラえもん最新ひみつ道具大辞典』でも、セットではなく個別に掲載されています。
よって海底ハイキングセットは「ドラえもん百科」の便宜的な名称であるとし、それぞれを個別のひみつ道具として扱います。
水中用の靴です。この靴を履くと、陸上を歩くときの10倍のスピードで水底を歩けます。着用中は、体が水に浮かないので泳げません。
水から酸素を取り出すひみつ道具です。鼻の穴に詰めて鼻から息を吸うと、酸素だけが通過して水中で呼吸ができます。
人体を深海に適応させるクリームです。全身に塗ると、深海1万メートルの水圧にも耐えられます。また、どんなに水温が低くても体温を逃がしません。
頭に装着する水中ライトです。水深1万メートルの水圧にも耐え、太陽光が届かない深海でさえ辺りを見通せるほど明るく照らします。
水中専用の拳銃です。直線的に伝わる圧力波を発射します。その威力は体長およそ3メートルのサメを一発で撃退するほど強力です。
円錐形の容器に半練りの食品が入っている携行食です。容器の上部に備えつけられたストローから吸って食べます。おいしくて、栄養たっぷりです。
海水用のストロー形浄水器です。海水をま水ストローに通すと、飲用に適した真水になって、飲むことができます。
水中用の寝袋(シュラフ)です。水中で安全に眠れるように、サメよけのトゲと、位置を固定するイカリがついています。
「海底ハイキング」は、どうにも違和感があるエピソードです。ドラえもんが不在でドラミちゃんがのび太の世話をしていたり、スネ夫の代わりに長身短髪の謎のキャラが登場したり、そしてなによりのび太が自分から果敢に冒険に挑んだり……。
特にのび太のキャラがしっくりきません。大長編では勇敢な一面を見せるけど、それもどちらかというと巻き込まれ型です。積極的に自分から計画を立てて冒険へ出るなんて、「のび太らしくないな」と感じます。
それもそのはず、調べてみて納得の事実。実は「海底ハイキング」の主人公はのび太ではなく、のび太の親戚の「のび太郎」だったのです。
ドラえもんなしでドラミちゃんだけが登場する一連のエピソードは、『ドラえもん』の外伝漫画『ドラミちゃん』を改訂したものなんだとか。その『ドラミちゃん』の主人公がのび太郎です。
てんとう虫コミックスに収録される際に、『ドラミちゃん』は『ドラえもん』として書き直され、のび太郎はのび太になりました。どおりで違和感があるわけです。
改訂前の初出版は『藤子・F・不二雄大全集 ドラえもん 20巻』に収録されていて、今でも読むことができます。
深海を冒険する「海底ハイキング」は、のちの大長編『ドラえもん のび太の海底鬼岩城』を思わせます。この大長編で活躍したひみつ道具といえば“テキオー灯”です。
テキオー灯は、エラ・チューブと深海クリームとヘッドランプの機能を併せ持ち、更にパワーアップしています。深海のみならず宇宙空間でさえ適応できるテキオー灯の前では、海底ハイキングセットの立つ瀬がありません。
海底ハイキングセットを一つのひみつ道具だと想定しても、「もしも、ドラえもんのひみつ道具を一つだけもらえるなら」を考える上では、テキオー灯が勝るでしょう。