たとえ仕事に疲れ果てたとしても、食べていくために続けるしかありません。
「お金があれば解放されるのに。もう地位も名誉もいらないから、お金が欲しい――」
そんな風にやさぐれた折、あなたのデスクの引き出しからドラえもんが現れて、ひみつ道具を一つだけくれるとしたら、さてなにを選びましょう。
夢のある一攫千金といえば宝探しです。人知れず眠っている財宝を見つけられたら……。
海外ではトレジャーハンターをなりわいにしている人たちがいて、何億円にもなるような財宝を彼らが探し当てることも珍しくありません。
ならばその名もずばりなひみつ道具の“宝さがし機”を選んで、財宝をゲットだ!
ところがそうは問屋が卸しません。発掘権やら所有権やら、宝探しには夢のない現実的な問題が立ちはだかります。
それに宝さがし機の探索範囲はたったの半径100メートルです。前途多難を呈すること間違いなし。これにすべてを賭けるのは、無謀な選択です。
宝探しより身近な一攫千金が公営ギャンブルです。競馬で倍率が100倍を超えた万馬券が出ては世間をにぎわせています。
けれど万馬券は滅多に出ないからニュースになるわけです。宝くじの1等みたいなもので、普通は狙っても当てられません。
そう、「普通は」です。「異常」な存在であるひみつ道具は例外です。もしもドラえもんから“カチカチカメラ”をもらったら?
カチカチカメラは、どんな勝負でも、勝者を自由に決められるビデオカメラです。つまり「勝ち勝ちカメラ」です。
テレビ越しでも効力を発揮するから、馬券を買ったらあとは自宅で中継を撮影するだけ。毎回、確実に当てられます。
もちろん、人の勝負を勝手に操るなんて許されません。私利私欲のためにそんな真似をしていいのか、いま一度、自分の良心と向き合いましょう。
ちなみに馬券の払戻金は課税対象です。うっかり脱税して国税局のお世話にならないように気をつけなければいけません。
競馬の結果を操ることは許されません。では結果を事前に知ることは?
なにせドラえもんは未来から“タイムマシン”で現代へやってきた猫型ロボットです。その力をもってすれば、未来を知ることくらい造作もありません。
数ある時空を越えるひみつ道具の中でも、この手の目的には“タイムテレビ”があつらえ向きです。過去や未来のあらゆる場所の映像を見られるテレビです。
勝ち馬はおろか、宝くじの当選番号も株価の推移も事前に確認できます。キャリーオーバーが発生しているロト7なら当選金額は最高で10億円。まさに一攫千金です。
ただし! そううまくいくとは限りません。
ドラえもんの歴史介入によって、のび太の結婚相手はジャイ子からしずかちゃんに変わりました。しかしそのほかの未来に関しては、どうあがいても変えられなかったケースが大半なんです。
初めから歴史に組み込まれていないと、SFでいうところの「歴史の修正力」によって、あらかじめ決められていた未来へと収束します。
うまく大金をせしめられるか否かは神のみぞ知ります。こればかりは試してみないとわかりません。
もっとも確実に、そして安全に大金を手に入れられるひみつ道具は“フエール銀行”です。
こんな辺境の個人サイトへたどり着くほどドラえもんに興味のあるあなたなら、きっと「そんなの知ってたよ!」とお思いのことでしょう。
でも待ってください。ここまで引っ張ったのには理由があります。それは「お金の出どころ」です。
これまでに紹介したひみつ道具によるお金の入手方法は、埋蔵金に宝くじに株券にと、その出どころを明かせます。一方、フエール銀行から得られるお金は「未来の銀行の利息」です。そんなこと、人に言えるでしょうか。
出どころ不明のお金は脱税や犯罪を疑われます。大金を手に入れたからといって、調子に乗って派手に散財すれば税務調査が入ります。
調査員に「フエール銀行の利息です」なんて言っても認められないのはもとより、今ある経済体系を覆すフエール銀行の存在を明かすわけにはいきません。
フエール銀行を手に入れても、待っているのはお上に目をつけられない程度のつつましやかな生活です。とはいえ、身の丈に合った生活を送れば済む話だから、さしたる問題ではないかもしれないけれど。
ここで残念なお知らせです。ひみつ道具を使って一儲けしようとたくらんだのび太にドラえもんはこう言いました。
「あくまで個人的に使うための道具なんだ。金もうけなどもってのほか」「金もうけしたら、ばく大な罰金をとられるんだぞ」
てんとう虫コミックス『ドラえもん』第37巻「なんでもひきうけ会社」より
そう、ひみつ道具でお金を稼ぐと罰せられるんです!
とはいえです。そもそも我々が暮らす現代にひみつ道具を届けた時点ですでに航時法に抵触しているはずです。それでは「もしもひみつ道具をもらったら」という妄想があさっての方向へ進むので、このルールはなかったことにしましょう。
当のドラえもんはこのルールをときには破りつつも基本的には守っていて、野比家からもらっているお小遣いをやりくりしてひみつ道具を手に入れるという涙ぐましい努力をしています。
閑話休題。というわけで、とにかくお金が欲しい人におすすめのひみつ道具は、フエール銀行でした。やっぱり!