人がタヌキに化かされる昔話を読んだのび太は、化け狸がいると本気で信じていた昔の人は馬鹿だなあと思いました。ところがドラえもんによると、その時代のタヌキは人に幻を見せることが本当にできたんだとか!
驚くのび太がその真偽のほどを問いただすと、ドラえもんは作り話だとあっさり白状しました。ドラえもんの嘘つき! とはいえ、その可能性を研究した未来の学者によるひみつ道具は本当にあるとのこと。それが「ドロン葉」です。
ドラえもんの「ドロン葉」は、天敵に幻を見せる念波を放出する能力をイヌ科[1]の動物に与える葉っぱです。
タヌキはイヌ科に分類されます。
これを頭に乗せたイヌ科の動物が身の危険を感じると、脅威を与えている相手を幻覚で惑わせて、窮地を脱します。
我々人間はもちろんイヌ科ではないので、自分では「ドロン葉」を使えません。これを使える身近なイヌ科の動物となると、ペットの犬くらいです。
そこでのび太がしずかちゃんの飼い犬シロに「ドロン葉」をつけてみたところ、なにも起こりませんでした。それもそのはず、「ドロン葉」は身に危険が及ばないと発動しないのです。
弱肉強食の自然界ならともかく、安全圏で暮らす飼い犬の「ドロン葉」が発動することはない……とも限りません。
犬は群れを作る動物です。犬にとって飼い主は群れの仲間で、自宅は群れの縄張りです。群れの危機は自分の危機。飼い主の危険や、自宅への不法侵入でも防衛本能が働いて「ドロン葉」が発動するはず。
幻を見せることによる防衛だから、非力な小型犬だろうと強力な番犬になります。家の留守を空き巣などから守ってくれる、頼もしい存在です。
「ドロン葉」をつけた動物が、どんな状況で、どんな相手に、どんな幻を見せるのかは、その時が来るまで分かりません。
そして「幻覚作用のあるドラッグを摂取した人が錯乱状態になり飛び降りて死亡する」という事例は枚挙にいとまがありません。
予測不能な幻覚の危険性は極めて高い。「ドロン葉」の発動によって死者が出る可能性は大いにいあります。
動物が幻術で人を死に追いやる。そんな超常的な犯行を事実だと証明するなんて、現代の科学力では不可能です。いわゆる「完全犯罪」です。
とはいえ、どれだけ犬を訓練したところで「ドロン葉」を飼い主の思わくどおりにコントロールできるようにはならないでしょう。動物の防衛本能任せなのでは悪用しようがありません。
幻覚の原因として一般的に考えられるのは、脳や精神の病気か、違法薬物です。狸に化かされた可能性に被害者が思い至っても、それも込みで幻覚だと言われるのがオチです。
「幻覚を見た」という明白な事実があろうと、「動物が化かした」というあまりな荒唐無稽さが真実を覆い隠すでしょう。
しずかちゃんの隣家の飼い犬ベソに「ドロン葉」をつけたところ、ベソが飼い主に成り代わって少年野球の試合に参加しました。幻術の獲得だけではなく、前脚の運動機能や知能も向上する!?
しかしベソの周りにいた人たちは幻を見せられていたわけだから、どこまでが現実に起こっていたのかは分かりません。
なんにせよ、映画『猿の惑星』リブート版で治験薬によって高い知能を得た猿が人類を凌駕していったような劇的な展開には至らないでしょう。
異能バトルもので定番の「人に幻を見せる」という能力。応用範囲が広く、多くの場面で役に立つ……とはいえ、要は人を騙すわけだから、あまり行儀のよい能力ではありません。
そもそも人間には使えない「ドロン葉」についてあれこれ考えても仕方がない。というわけで、もしもドラえもんのひみつ道具を一つもらえるなら、「ドロン葉」の優先度は星 つです。