ドラえもんに頼まれてアイスを買いに行ったのび太が泣きながら帰ってきました。買ったばかりのアイスをジャイアンに取られたんだとか。
アイスを買うお金を出したドラえもんとしては、どうにかしてアイスを取り戻したい。でものび太じゃジャイアンにとうてい敵いません。
そこでジャイアンを無力化できる(かもしれない)ひみつ道具をのび太に渡しました。それが「いっすんぼうし」です。
ドラえもんの「いっすんぼうし」は、人を小さくする帽子、つまり「一寸法師」ならぬ「一寸帽子」です。
指先にちょうどかぶるくらい小さなこの帽子を人の頭に乗せると、帽子にぴったり合うくらいまで体がみるみるうちに小さくなります。
1寸は約3センチですが、これで小さくなったのび太の身長は5センチほどに見えます。とにかくそれほど小さな小人です。
「いっすんぼうし」を頭に乗せる際に着ていた衣服も一緒に小さくなるので、裸になってしまう心配はありません。これを脱げば元の大きさに戻ります。
「いっすんぼうし」で人を小人にして無力化するといっても、誰かに帽子を無理やりかぶせられたら、反射的に脱ぐのでは? 結果的に「いっすんぼうし」を相手に渡すことになるし、防衛や攻撃に向いているひみつ道具とは思えません。
攻撃的に人を小さくするなら、「スモールライト」や「細胞縮小き」のほうが優秀です。
そもそも、そんな治安の悪い使い方は「有用」だなんて言えません。なにか平和な使い道……。ドラえもんたちはというと、小人になると自分以外が相対的に大きくなることを利用して、アイスを爆盛りにして食べました。
つまり「いっすんぼうし」をかぶれば、見慣れたこの世界が見たことのない「巨人の世界」になる!
スマホが大型モニターに、普通のモニターが映画館ばりの巨大スクリーンのように見えるわけです。自宅のお風呂がプールになったりも。これは楽しい!
とはいえ、あくまで相対的に良くなった(ように感じる)だけ。なにかの価値を本質的に高められるものもあるひみつ道具の中では、いささか凡庸です。
ロボット掃除機に轢かれたり、テーブルから落ちて重傷を負ったり、飼い猫に噛み殺されたり……。かりそめの「巨人の世界」は危険でいっぱいです。
身の回りに施されている安全対策の大半は人間のためのもの。身長5センチほどの小人のことなんて1ミリも考慮されていません。
「いっすんぼうし」で小人になって誰かのカバンに潜り込んでいれば、その人の自宅に誰にも見られず侵入できる!?
普通の人間なら入れない狭いスペースに小人なら入り込めます。防犯カメラの画角をかいくぐったり、通気口を通ったり……。
とはいえ5センチって、そこそこの大きさだから、わりと目立ちます。小人ゆえの危険性もあるし、「悪事にうってつけ!」とまではいきません。
やはり自分が小さくなるより、他者を小さくするほうが悪事と親和性が高い。人を強制的に小さくするのに不向きな「いっすんぼうし」より、「スモールライト」や「細胞縮小き」のほうが悪質です。
人前で小人に変身したらそりゃ目立つけど、自宅で一人きりのときに小人になる分には誰も知る由もありません。「いっすんぼうし」の秘匿性は使い方次第です。
一つの「いっすんぼうし」で同時に小人になれるのは一人だけ。
同時に何人も小人にしたり、人と着衣に限らずなんでも小さくできる「スモールライト」[1]や「ガリバートンネル」に比べたら、「いっすんぼうし」の社会に変革をもたらす力は高が知れています。
ただし「スモールライト」の効果は約3日過ぎると切れて、元の大きさに戻ります。
人や物の大きさを変えるひみつ道具がたくさんある中で、「いっすんぼうし」の強みは自分が小人になったり戻ったりする際の扱いやすさです。
「スモールライト」と違って有効時間の制限がないし、「ガリバートンネル」と違って手軽に持ち歩ける。効果の解除方法も「帽子を脱ぐ」だけだから、いつでもすぐさま元の大きさに戻れます。
逆に言えば、応用性に乏しく、小人になる以外の使い道がありません。
「マーベルのアントマンみたいに小人に変身できるようになりたい!」というような願望があるならともかく、大抵の人は「いっすんぼうし」をもらっても持て余すだけでしょう。
というわけで、もしもドラえもんのひみつ道具を一つだけもらえるなら、「いっすんぼうし」の優先度は星。どうせなら、定番の「スモールライト」をもらいたいよね。
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