シンガーソングライターが夢なのに作曲できない! そんなジャイアンの悩みを聞いたのび太は、よせばいいのに「なんとかしてやる」と約束しました。
でもどうやって? のび太が思いつく解決策といえば、ドラえもんに丸投げすることです。そしてドラえもんといえばひみつ道具。「メロディーお玉」の出番と相成りました。
ドラえもんの「メロディーお玉」は、メロディー生成ツールです。これのマイクに詞を吹き込むと、中のオタマジャクシ(お玉)が五線譜の上に並んで、詩に合わせたメロディーを示します。
生成するメロディーのテンポや曲調はコントロールダイヤルで変更できます。
これのオタマジャクシを「タイムふろしき」でカエルに成長させると、生成したメロディーをカエルが鳴き声で歌ってくれるようになります。
このブログ『もしも道具』は「もしもひみつ道具を一つだけもらえたら」がテーマなので、以下はオタマジャクシ版に限定したレビューです。
これで歌メロを作れるよ!
歌メロだけ!? コードもビートもついてる完成した曲を生成できるAIもあるってのに!?
はたして歌メロしか生成できない作曲ツールに価値はあるのか。ただ歌メロを作るだけなら、音楽理論を知らなくても鼻歌で感覚的に作れます。問題はそのクオリティーです。
毒にも薬にもならない、どうでもいいメロディー。一度聴いただけで耳に残って胸を打つメロディー。後者を作れるなら、十分に価値があります。
それでは「メロディーお玉」の曲を聴いたドラえもんたちの感想はというと……。
てんとう虫コミックス『ドラえもん』第16巻「シンガーソングライター」より
- ジャイアン
- 「こ、これがおれの詞につけられた曲か。おお、なんと美しい…」
- のび太
- 「ほんとに美しい曲だなあ」
どうやら「メロディーお玉」は優秀なメロディーメイカーのようです。あとは「機械の作った作品」に意義を認められるかどうか。こればかりは人それぞれの価値観によります。
なんにせよ、美メロを必要とする人にとってはとても価値のあるひみつ道具だし、そうでない人にとってはまるで価値のないものです。
「メロディーお玉」がどうやってメロディーを生成しているのかは不明です。それがどこまでオリジナルなメロディーなのか……。
これで生成したメロディーを基に完成させた曲を公開するなら、念のため鼻歌検索アプリで類似の曲がないか確認してからにしましょう。
生成AIの成果物は、既存の著作物と類似していないなら著作権侵害にはなりません。「メロディーお玉」が生成したメロディーも、既存のメロディーに類似したものがなければとくに問題ないでしょう。
そのメロディーを作ったのは人か機械か。それを第三者が判別する術はありません。
対話をしたり、画像を作ったりする生成AIの台頭は、人類史のターニングポイントになる革命的な出来事でした。その渦中にある今となっては、メロディーを生成する機器の存在なんて、なんの驚きもありません。
オタマジャクシが泳いで譜面になる遊び心からして「メロディーお玉」は子供向けの知育玩具かと思いきや、楽譜を読めるのが前提という優しくなさ。
それならDTM[1]ユーザー向けの作曲支援ツールなのかというと、DAW[2]との連携もできません。
ただ「良いメロディーを生成する」という一点突破の「メロディーお玉」を十全に役立てられる人といえば、職業作曲家くらいでしょうか。
新しいメロディーを日々必要としているであろう作曲家なら、「メロディーお玉」が大きな助力になるはず。とはいえ、機械がゴーストライターの作曲家というのも情けない話です。
まあこれからの時代のあらゆる創作活動はAIの助力を得ることが普通になっていくだろうから、気にする必要はないのかもしれません。
なんにせよ、そのうち現代のAIが人に「美しい」と思わせる曲を安定して生成できるようになるだろうから、未来の「メロディーお玉」を時を越えて手に入れるまでもないでしょう。
というわけで、もしもドラえもんのひみつ道具を一つもらえるなら、「メロディーお玉」の優先度は星
つです。