『ドラえもん』のアニメ版が声優陣の一新によるリブートを遂げてからの映画作品は、過去の大長編のリメイクや、短編をベースにしたものでした。
今は亡き藤子・F・不二雄先生が残した原作はもちろん大切です。でも、これからも永くアニメ版を続けていくためには、完全オリジナルの作品も必要です。
リブートから8作目の映画にして、満を持して完全オリジナル作品の『ドラえもん のび太のひみつ道具博物館』が登場しました。
リブート以降の作品に拒否反応を示した旧来のファンによるディスもだいぶ治まったこともあってか、これがなかなかの高評価。その評判も納得の快作でした。
押し入れで昼寝しているドラえもんのもとに突如として開いた超空間。そこから伸びてきた何者かの手によって、ドラえもんの首輪の鈴が盗まれてしまった。
昨日観た探偵映画『ルパン対ホームズ対オシシ仮面』に感化されていたのび太は、慌てふためくドラえもんからその話を聞いて、自分が探偵になって犯人を突き止めると意気込む。
そこでドラえもんが“シャーロック・ホームズ・セット”でのび太に推理させると、盗まれた鈴のありかはどうやら22世紀の「ひみつ道具ミュージアム」らしいことがわかった。
ドラえもんはなんとしてでも鈴を取り返したかった。なぜなら、とても大切な思い出の品だったから――。
映画『ドラえもん のび太のひみつ道具博物館』予告編
以下、ネタバレがあります。
高評価の理由はずばり「楽しさ」に振り切った作風のおかげでしょう。観客を楽しませる仕掛けとして小ネタがこれでもかと詰め込まれています。
例えばドラえもんの首輪です。鈴の代わりに着けられている「黄色いなにか」が脈絡もなく変わり続けます。レモンから始まって、テニスボール→蝶ネクタイ→ミカン……。「次はなにかな?」と楽しめました。
これは物語にはいっさい絡まないお遊びで意味はありません。でもそれがいい。
ほかにも「ドラえもんは鈴が着いていないと野良猫化する」という本作独自の設定もまた無意味です。個人的には、原作にはない勝手な設定は好きじゃないけれど、いつになくネコっぽいドラえもんがかわいくて許せてしまいます。
『ドラえもん のび太のひみつ道具博物館』は終始そんな感じだから物語性は薄いし、舞台の大半が「ひみつ道具ミュージアム」の中だから冒険感も薄いです。
その代わりに濃いのが「お祭り感」です。小ネタに加えて、ひみつ道具もこれでもかと登場しまくって盛り上げます。
毎回この作風じゃすぐに飽きるけど、1本くらいはこういう大長編も必要でしょう。「泣ける」に固執し過ぎた作風よりよっぽどマシです。
泣かせにきてるのが見え見えだった「鈴の思い出」は、まあ刺身のつまということで。
楽しさを重視したあまり、副作用も散見されました。
気分の悪い要素を排除したかったのでしょう。鈴を盗んだ怪盗デラックスの正体も、その黒幕のペプラー博士もいわゆる「悪人」ではありません。
そのせいでペプラー博士のキャラが「迷惑なお年寄り」になっています。家族の反対を聞かずに車の運転を続けたあげく、ブレーキとアクセルを踏み間違えて人をひき殺してしまう老人そのものです。
これだったら、普通に悪人だったほうがまだ肩入れできたかもしれません。
また誰でも楽しめるようにするためには仕方がないとはいえ、犯人当てもイージーで歯応えが足りません。シャーロック・ホームズのネタで幕を開けただけに、これはちょっと残念です。
そんな難癖を黙らせる勢いがあるのが『ドラえもん のび太のひみつ道具博物館』の美点です。たぶん本作を観た子供たちは、前よりずっとひみつ道具を好きになるでしょう。それだけでもう十分。
線に強弱のつけられた柔らかい画風と、ネコ感強めのしぐさが相まって、いつもよりかわいさ増し増しのドラえもんも必見でしょう。ブラックなドラえもんはまた別の機会に見れればいい。
というわけで、映画『ドラえもん のび太のひみつ道具博物館』のお気に入り度は星
。いつもの大長編とは違う趣向を受け入れられる人なら、きっと楽しめます。