「ぼくのポケットに入っているひみつ道具の中でも、こればかりは使い道がない」
そうドラえもんの頭を悩ませたひみつ道具が“暗くなる電球”です。
「暗くなる電球」という道具名は公式ガイドブックの『ドラえもん最新ひみつ道具大事典』より。
原作漫画では、のび太が「つけると暗くなる電球だね」(1)と言及するだけで、道具名は明記されていません
(1)てんとう虫コミックス『ドラえもん』第10巻「夜を売ります」より。
ドラえもんの暗くなる電球は、つけると照射範囲が暗くなる、光源ならぬ「闇源」の電球です。通常の電球と同じ規格なので、現代の照明器具にそのまま取り付けられます。
作中には口金のサイズと暗さの度合いが異なる複数の暗くなる電球が登場しました。
そこでドラえもんからもらえるのは、E10(豆電球)とE12(ナツメ球)とE17とE26の4サイズを、それぞれ薄暗くなるのと真っ暗闇になるのを1個ずつで、計8種類のセットとします。
光を遮り部屋を暗くする遮光カーテンを寝室につけるのはごくありふれたことです。ドラえもんは「暗くする手段」のニーズを軽く見積もったけれど、実際には多くの場面で求められます。
ただし暗くなる電球は現代の科学技術では実現不可能な「あるはずのないもの」です。ひみつ道具が見過ごされる『ドラえもん』の世界とは違って、我々が暮らしているこの社会では大っぴらには使えません。
人目を避けて自宅で使うなら、それこそ遮光カーテンや雨戸を閉めれば済む話。「開けた場所を局所的に暗くできる」という暗くなる電球ならではの利点を活かせずに、宝の持ち腐れとなってしまうでしょう。
暗くなる電球による暗がりは、通常の暗がりとまったく同じです。例えばその暗がりの中でライトをつければ、普通に明るくなります。これ特有の危険性はありません。
それに不都合が生じたとしても、暗くなる電球を装着した照明器具のスイッチを切ればすぐに解決します。
暗くなる電球が生じさせる現象はとても目立つけれども、明るい場所ではなく、暗い場所をさらに暗くするなら話が別です。そして犯罪の多くは夜陰に乗じて行われます。暗くなる電球は悪用向きのひみつ道具です。
真っ暗闇になるタイプの暗くなる電球を装着したフラッシュライト(懐中電灯)は、人の視界を奪うなど、悪用方法にたけるでしょう。
暗くなる電球が暗闇を生じさせるありさまは明らかに超常現象です。誰もが「なにが起こっているのか」と注目するでしょう。
暗い場所を照らす光がある場合になにが光源なのか一目瞭然なように、明るい場所を陰らす闇源もまた一目瞭然のはず。人前で暗くなる電球は使えません。
例外として、はなから暗い場所で使う場合は目立ち度がぐっと下がります。とはいえ使い道もぐっと狭まるので本末転倒です。
光を物体で遮るのは簡単です。しかし波(波動)で遮るとなると、我々現代人には未知の領域です。それを豆電球サイズで、しかも乾電池の電力で実現する暗くなる電球は驚異的です。
もしも暗くなる電球の動作原理が解析できたなら、量子力学に革命が起こるでしょう。
「ありそうでない」という微妙なところを突いてきた暗くなる電球は、なんともひみつ道具らしい、わくわくさせられる逸品です。ある種の科学実験というか参加型アートというか、単純に体験するだけで面白そうです。
けれど「なんか楽しい」以上のものがあるかというと……。というわけで、「ドラえもんのひみつ道具を一つだけもらえる」という条件で考えるなら、暗くなる電球の優先度は星
つです。