「空を自由に飛びたいなぁ」
「はい、“フワフワオビ”」
「えっ?」
ドラえもんのフワフワオビは、身にまとうと宙に浮き風に乗り、天を舞える羽衣(はごろも)です。日本各地に伝わる『羽衣伝説』に登場する羽衣を模しています。
移動する方向や高度は意識的にコントロールできるものの、その力は弱く、風にあおられると容易にコントロールを失ってしまいます。強風に逆らっては飛べません。
効果が発動するのは身にまとったときだけ。手にしているだけなら発動しないので、浮かび上がらず普通に持ち歩けます。ただし、効果が発動していなくてもちょっとした風で飛んでいってしまうほど軽量です。
いうまでもなく、空を飛んで移動できる機能はとても有用です。ただ、空を飛べるひみつ道具の筆頭の“タケコプター”と比べると、フワフワオビは見劣りします。
制御がままならないのは空を飛ぶ道具として致命的です。言葉の綾ではなく、正しく命を失いかねません。バッテリー切れの心配がない、独自の浮遊感を味わえる、などのメリットではタケコプターとの差は埋まらないでしょう。
空を飛ぶからには身の危険を覚悟しなければなりません。フワフワオビは風に流されやすいため、飛行系ひみつ道具の中でも特に危険性は高いでしょう。
高層建築物の屋上やベランダなど、直接たどり着くことが想定されていない箇所へ飛んで行けば、建物内へ不法侵入する難度が下がります。
フワフワオビが登場するエピソード「しずかちゃんのはごろも」が描かれた70年代前半ならいざ知らず、スマホが普及している現代で日中に空を飛ぼうものなら、動画を撮られてあっという間に拡散されてしまいます。
明るいあいだに人目を避けつつ飛ぶのは難しいので、日中の足にするのではなく、夜中に娯楽として空を飛ぶことが主な使い道になるでしょう。
人一人が空を飛んだところで世界は変わりません。
仕組みが解析できて量産化されても、安全面の問題や速度の遅さがネックになって、社会が一変するまでには至らなさそうです。
飛行高度を地表10センチ程度に制限できれば、歩行が困難な高齢者の方などが移動に使う福祉用具として脚光を浴びるでしょう。高齢化が進む日本において、とても好ましいイノベーションです。
そりゃあ空は飛びたいです。けれどもタケコプターを差し置いて選ぶほどの優位性がフワフワオビには見いだせません。というわけで、もしもドラえもんのひみつ道具を一つもらえるなら、フワフワオビの優先度は星
つです。