漫画『ドラえもん』には6種類の第1話がある!?
どういうことかと聞いて納得。『幼稚園』とか『小学一年生』とか、学年別に分かれている学習雑誌で連載が始まったので、それぞれの対象年齢に合わせた第1話が描かれたというわけです。
単行本第1巻に収録されているのは『小学四年生』版だけ。第1話がいくつもあったら読み手が混乱するから当然だけど、ファンとしては全種類読みたいところです。
そんな期待に応えるのが、『ドラえもん』の50周年を記念して発刊された第0巻です。6種類の第1話がすべて収録されてる! これはうれしい。
『よいこ』版の第1話が「ドラえもんあげる」です。入園前の幼児向けだけあって、4ページしかないシンプルな話だけどこれが面白い。
手紙を出すおつかいをママに頼まれたのび太のために、ドラえもんがポストを担いで家に持ってきます。手紙を入れたら元の場所にポストを戻してくるという寸法です。
「それなら手紙を出してきてよ!」とツッコむところだけど、のび太は素直に感心します。すると今度は急に雨が降り出したので、会社帰りのパパに傘を届けに行こうとしたら……。
逆転の発想と、反復が笑いを生み出すシュールな秀作。雨の中、四足歩行で外に飛び出すドラえもんの姿も見ものです。
「ドラえもんがやってきた」は『幼稚園』版の第1話です。“復元光線”と思わしきひみつ道具が登場します。
「ドラえもんがひみつ道具でのび太を助ける」という定番の展開がすでに見られる一方、ジャイアンの顔が純朴そうだったりして、藤子・F・不二雄先生の手探り感が見え隠れするのが興味深い。
『小学一年生』版の第1話が「ドラえもん登場」です。対象年齢が上がってページ数もコマ割りもぐんと増えて、読みごたえが出てきました。
設定に関する描写もされるようになって、ドラえもんとセワシが未来からやってきたことがようやく明言されるほか、ドラえもんがお腹のポケットからひみつ道具を取り出す姿も見られます。
けれどドラえもんのポケットを描き忘れているコマもけっこうあるので、それが“四次元ポケット”という重要アイテムだということはまだ決まってなかったのかもしれません。
一番の見どころは、ドラえもんがひみつ道具を使わずに身一つで空を飛ぶところでしょう。こうした違和感の強い場面を見られるのが単行本未収録の第1話ならではの醍醐味です。
「未来から来たドラえもん」は『小学二年生』版の第1話です。ついに“タケコプター”が登場しました。
ドラえもんがのび太のもとにやってきた理由がここで語られます。第0巻は対象年齢の低い順に話が並んでいるため、徐々に謎――ファンには周知の事実だけど――が明かされていく構成になっているのが面白い。
そして本作では、ドラえもんが金属的な光沢を放っているように描かれています。その後に使われることのなかった表現だけあって、テカテカした姿のドラえもんにはやっぱりなじめません。
『小学三年生』版の第1話が「机からとび出したドラえもん」です。
ドラえもんとセワシが“タイムテレビ”でのび太に将来を見せつけます。それはのび太の失敗続きの人生でした。
そんな冴(さ)えない人生を送る人もいるのだという世知辛さを年端のいかない読者にのび太を通して突きつけます。必要とあらば容赦ないのもまた『ドラえもん』の魅力でしょう。
登場人物を紹介するページもあって、そこにはのび太のパパとママが「あまくてぜったいにのび太をおこらない」と書かれています。決定版とは異なる初期設定が次から次へと出てくる!
第1巻にも収録されている「未来の国からはるばると」が『小学四年生』版です。『ドラえもん』の第1話といえば、やはりこれでしょう。
机の引き出しからセワシが現れて呆然としているのび太と、お構いなしに説明を畳みかけるセワシを描くコマを連打するリズム感といったらもう! 『ドラえもん』の随所に見られる漫画の妙、藤子・F・不二雄先生のセンスに脱帽です。
改めて読むと、ジャイ子と結婚するのび太の人生も決して悪いものではなかったと思えます。なにせ6人もの子供をもうけるのだから!
ちなみに第1巻に収録されているのはかなり加筆修正された改訂版です。細かい部分がいろいろ違うから、見比べながら読むと存外楽しめます。
6本の第1話だけでは単行本にするのにページが足りていないため、ほかの回も「特別収録」として収録されています。
『小学三年生』版の第2話。1部のコマが第1巻版の「未来の国からはるばると」に移植されています。
新たに『小学五年生』でも連載が始まったときの初回話。ドラミちゃんと“どこでもドア”が初登場します。
連載誌の前月号に掲載された予告ページ。主人公もタイトルも決まっていない段階で描かれた伝説の予告です。
『ドラえもん』の誕生秘話を描いた読み切り自伝漫画です。
短いながらも的を射た解説です。
てんとう虫コミックス『ドラえもん』全45巻の表紙イラストと目録です。
水増し感のある「全45巻収録作品一覧」を含めても第0巻は135ページしかなくて明らかに薄いのに、通常巻より高い700円+税です。
と、これだけ聞くと割高だけど、手に取って納得。紙質が良いんです。より白く、より発色が良い。購入した『ドラえもん』ファンにとって永久保存版になるだろう本だから、紙質は大事です。
6本の第1話の面白さはいうまでもありません。『ドラえもん』全45巻をそろえている人はもちろんのこと、ライトなファンにもお勧めできる1冊でした。
ちなみに第1話が複数あるのと同じ理由で(便宜上の)最終話も2本ある、という記事も書いているので興味がある方はリンク先もどうぞ。