スネ夫に渡された箱をのび太が開けると、猫の人形が飛び出した! びっくり箱だったのです。驚きのあまり悲鳴をあげて逃げ出すのび太でした。
のび太は悔しくて仕方ありません。仕返しをしたくてドラえもんに泣きつきました。そうして貸してもらったのが「びっくり箱ステッキ」です。
ドラえもんの「びっくり箱ステッキ」は、開けられる物ならなんでもびっくり箱に変えられるステッキです。蓋つきの箱や、扉、引き出しといった開けられる物にこれを触れさせると、次に開けたときに中から人形が飛び出します。
びっくり箱になった物を一度開けてから閉めると、元の状態に戻ります。次に開けた際はなにも起こりません。
びっくり箱はジョークグッズなので有用性もへったくれもありません。ジョークグッズとしても子供だましで、ドラえもんはバカにしました。
てんとう虫コミックス『ドラえもん』第16巻「びっくり箱ステッキ」より
- のび太
- 「びっくり箱をだして」
- ドラ
- 「そんなものだしても、なんにもならないだろ」
- のび太
- 「どうして」
- ドラ
- 「あんなものをこわがるのは、きみぐらいのもんだよ」
でもそれは普通のびっくり箱の話。「びっくり箱ステッキ」は腐ってもひみつ道具、普通のびっくり箱とはわけが違います。
のび太のママは、びっくり箱と化した煮えたぎる鍋の蓋を開けて悲鳴をあげました。「煮えたぎる鍋」がびっくり箱だと誰が想定できるでしょう。ありえないことに直面すれば、たとえそれがびっくり箱だろうと人は驚愕します。
「びっくり箱ステッキ」による異常なびっくり箱は、大の大人もひっくり返る、度を越したジョークグッズです。
その異常性は防犯にも活かせるかもしれません。家を空ける際に玄関をびっくり箱にしておけば、ピッキングやサムターン回しで鍵を破られても、一度は侵入を防げます。
もちろん玄関を開けなおされたら終わりです。でも犯行のさなかに遭遇した常識外れな現象に落ち着いて対処できる空き巣狙いはそうはいないでしょう。
ぐらぐらと煮え立つ鍋の蓋をのび太のママが開けると、河童の人形が飛び出しました。もともと入っていた鍋料理はいったいどこに!? 驚いた勢いで鍋をひっくり返しちゃったらどうなる?
熱々の鍋料理が一時的とはいえ行方不明になっているのは怖い。すくなくとも鍋は高温になったままのはずです。思わぬ形で火傷を負うかもしれません。
人は度を超えて驚くと混乱して判断力がしばらく低下します。火元や刃物があるキッチンで「びっくり箱ステッキ」を発動するのは危険です。
キッチンに限らずとも、普通なら考えられない物がびっくり箱になっていれば、普通では考えられないアクシデントが起こりえます。
「人を怖がらせたい」というイタズラ心は悪意と紙一重です。相手が笑って許してくれたら「イタズラ成功!」だけど、怒られたら素直に謝りましょう。
びっくり箱は誰かに開けさせてなんぼのものです。「びっくり箱ステッキ」を使うからには、一人こっそりとはいきません。
例の「煮え立つ鍋」みたいな常識外れなびっくり箱を開けた人は、驚きが落ち着いたあとで「いったいぜんたいどういう仕組み!?」と疑わしく思うはず。
とはいえ、その疑問からどれだけ考えを巡らせたところで、「ひみつ道具」という超常の存在に思いが至ることはまずないでしょう。
四次元空間を用いているのかなんなのか、「びっくり箱ステッキ」がいかように作動しているのか我々現代人にはまったく理解できません。
しかしどれだけ魔法と見分けがつかないほど発達した科学技術で作動していようと、その成果は「びっくり箱」です。現代社会に変革をもたらすひみつ道具ではありません。
びっくり箱を最後に目にしたのっていつですか? 比喩表現としての「びっくり箱」は見聞きしていても、実物のびっくり箱はほとんど目にしてないのでは?
生涯一度も使ったことも使われたこともない人がいてもおかしくないくらい、ニッチな(でもメジャーな)グッズなのがびっくり箱です。
「不思議なびっくり箱で人を驚かせる」ということに、ひみつ道具を使ってまでして実現する価値があるとは思えません。
というわけで、もしもドラえもんのひみつ道具を一つもらえるなら、「びっくり箱ステッキ」の優先度は星
つです。