借りパクの常習犯であるジャイアンから、なんとかして物を取り返したい。けれども言ってわかる奴じゃないし、腕っぷしでもかなわないと考えたのび太は、ドラミちゃんに透明人間になれるひみつ道具をねだりました。
それは卑怯だと断られたものの、のび太がドラミちゃんを口車に乗せて、まんまとせしめたひみつ道具が“とう明人間目ぐすり”です。
道具名はこのひみつ道具が登場する原作エピソード「とう明人間目ぐすり」のタイトルより。作中では道具名が明記されていません。
ちなみに公式ガイドブックの『ドラえもん最新ひみつ道具大事典』には「透明人間目薬」として掲載されています。
ドラミちゃんのとう明人間目ぐすりは、さすと透明人間になる目薬です。
効果の持続時間および解消方法は不明。当サイトでは、持続時間は無期限で、透明人間になってから改めてとう明人間目ぐすりをさすと元に戻ると仮定します。
「透明人間になったらなにをしよう」と考えると、ろくなことが思いつかないのは心が汚れている証拠? 否、そもそも透明人間というものがよこしまな妄想の産物だからでしょう。
胸を張って有用だといえる透明人間ならではの行動はごく限られます。しいて挙げるなら、不測の事態に巻き込まれたときなどに身を隠すことです。しかしとう明人間目ぐすりで透明になるのはあくまで人体だけなので、裸にならなければなりません。
服の上から羽織るだけで身に着けている物も含めて透明になる“かくれマント”と違って、護身に使うにも向いていないとなれば、我々の日常生活にとう明人間目ぐすりの健全な出番はないでしょう。
裸はとても無防備です。特に裸足(はだし)で外を歩くのは怪我の元です。また、人から見えないのにうっかりいつもの調子で横断歩道を渡ったりしたら、車にひかれかねません。
そしてとう明人間目ぐすりが人体を透明にするプロセスがなにげに恐ろしい。ドラミちゃんによると、体細胞そのものを変化させているのです。
体内の細胞を水晶体にしちゃうわけ。色素を分解して、細胞のすきまを液体でうめて、くっせつ率を0にして……。
てんとう虫コミックス『ドラえもん』第8巻「とう明人間目ぐすり」より
設定上、とう明人間目ぐすりに副作用はないとはいえ、それでもこんな薬を使うなんて正気の沙汰とは思えません。
とかく透明人間は悪行にあつらえ向きです。ただしなにぶん素っ裸なので、ある程度行動に制限がかかります。着衣や手に持っている物まで透明になるかくれマントと比べれば、まだ悪用度は低めです。
たとえ姿が見えなくても、動作から生じる物音や空気の揺れ、そして体臭や体温がいわゆる「気配」を織りなします。透明人間とて姿を完璧に隠しきれはしません。
もちろん「目には見えない人らしき存在」は恐ろしいから、感じ取った人がいたとしても、積極的に正体を確認しようとしてくるケースは稀(まれ)でしょう。
透明人間になれるひみつ道具の大半は装着タイプなので、「ひみつ道具を一つだけもらえる」という条件下だと一度に一人しか使えません。でも薬剤タイプのとう明人間目ぐすりなら、同時に複数の人を透明人間に変えられます。
これを組織的な破壊活動に用いられたら……。もしもとう明人間目ぐすりを手に入れても、決して口外してはいけません。
一口に「透明人間になれるひみつ道具」といっても、人の認知能力に作用する“石ころぼうし”だったり、いわゆる「光学迷彩」の“とうめいマント”だったり、それぞれ実現方法が異なります。
本当の意味で透明人間を実現するとう明人間目ぐすりは、むしろ異色です。なにせ裸にならないと特性を活かせません。これは単純に不便です。
透明人間になることの是非をさておいて選ぶとしても、人体の細胞を透明化する方式だけは避けたいところ。というわけで、もしもひみつ道具を一つもらえるなら、とう明人間目ぐすりの優先度は星
つです。