ひょんなことから地中深くに眠る街の存在を探知したのび太は、大発見だと喜び勇んで手持ちスコップで地面を掘り始めました。そんなもんで到達できるわけがないと、一緒にいたドラミちゃんが取り出したひみつ道具が“地底探検車”です。
ドラミちゃんの地底探検車は、ドリルで穴を掘りながら地中を走る乗り物です。ドラえもんの“穴ほり機”の姉妹品にあたるひみつ道具で、掘削力や移動速度などがグレードアップされています。
非常に優れた耐性を有していて、高圧と数千度を超える高熱の環境だと推測される地球のマントルやコアに到達しても問題ありません。防水性能も完璧で、ある程度自由に水中を航行できます。
その上、物体を吸いつけて牽引(けんいん)する機能も装備しています。
地底探検車が再登場した第6巻「ネッシーがくる」では、無人の地底探検車をオートパイロットでネス湖へ向かわせました。しかしそのときには地底探検車に“自動操縦装置”を別途取り付けていたので、「ひみつ道具を一つだけ」という条件でもらった場合はオートパイロットは使えないものとします。
また、ネス湖まで開通した穴は事後に埋めたことが示唆されています。穴を埋めた方法は不明なので、本稿では別のひみつ道具を用いたと当て推量しました。よって地底探検車には穴を埋める機能は備わっていないとして話を進めます。
市街地の地上には建造物や道路などが、地中にはガス管や水道管などが張り巡らされています。それらを地底探検車で壊してしまったら一大事です。地中に出入りしても誰の迷惑にもならない場所はごく限られます。
それなのに地底探検車にはレーダーなどで前方の状況を確認する機能が付いていません。当てずっぽうで地中を掘り進むしかないので、なにかを壊してしまうか否かは運任せ。いくらなんでも無責任です。
地中を高速かつ自由に移動できるのは便利かもしれないけれど、器物損壊罪や建造物損壊罪に問われるリスクを負うには到底見合わないリターンです。
地底探検車は優れた強度で搭乗者の安全を守ります。しかし、周囲に与える影響は一切考慮されていません。地中を無暗に掘り進めれば、インフラ設備を壊してしまったり、地盤沈下を招いてしまったりするでしょう。
おそらくその賠償責任は個人ではとても背負いきれないほどの規模になります。また、逮捕も免れません。地底探検車は搭乗者の社会的立場までは守ってくれません。
すさまじいスピードで地球のコアすら突き抜けられる地底探検車のパワーを持ってすれば、造作なく都市を瓦礫(がれき)の山と化せるでしょう。
ガス管を破って爆発を誘発し、ビルの基礎部分を崩して倒壊を招き、地中電線路を断ち切って都市機能をマヒさせるなど、破壊の限りを尽くせます。人口密度の高い都心部を破壊したなら、死傷者はおびただしい人数に上るはずです。
地底探検車は、紛れもなく破壊兵器です。
ひとたび地中深くに潜ればそう簡単には探知されません。とはいえ永遠と地中にいるわけにはいきませんから、地底探検車を隠しとおすのは難しいでしょう。
地球の最深部がどうなっているかは、地表から観測できるデータを基に推測するしかありません。地底探検車で最深部を直接観測すれば、必ずや新しい発見が得られるはずです。惑星の成り立ちをより詳細に解き明かせます。
ちなみに、推測されている地球内部の構造は映画『ザ・コア』で観られます。ただしあくまで娯楽作品なので、正確な科学考証を期待せずに話半分で観る映画です。
閑話休題、地底探検車の初登場した第5巻「地底の国探険」が描かれてから40年以上を経て、かなりの進化を遂げた現在の掘削機と比べても、地底探検車の革新性はかすみません。
地底探検車ほどのデカブツとなると置き場所を確保するだけでも面倒です。そういった維持コストや、地盤を掘り進むという機能は、個人ユース向けとは思えません。物騒な側面も相まって、これではもらっても困るだけでしょう。
というわけで、もしもひみつ道具を一つもらえるなら、地底探検車の優先度は星
つです。