「もう、なにもかも壊れちゃえばいいのに」
人間生きていれば、そんな破滅的な気分になることだってあります。そして――よほどひっぱくした境遇でなければ――あくる日にはけろっと前向きになったりもします。
でも、破壊衝動に駆り立てられている真っただ中にドラえもんがデスクの引き出しから現れて、ひみつ道具を一つだけくれるとしたら……。
はたして人類は、あくる日を迎えられるでしょうか。
「ひみつ道具」と「破壊」。この二つのキーワードから連想するものといえば、なにはなくとも“地球はかいばくだん”でしょう。
文字どおり、地球を破壊する爆弾――なのかどうかは、実は定かではありません。そのあまりに直球なネーミングのインパクトから、ひみつ道具屈指の知名度を誇るものの、ついぞ使われなかったため、詳細は不明なんです。
“独裁スイッチ”みたいに実害のない学習材なのかもしれないし、“悪魔のパスポート”みたいな恐ろしい代物かもしれません。
ところで、「いっそなにもかも壊れてしまわないかな」という妄念を抱いたとき、人はどんな状況を思い描くのでしょう。
爆弾で地球が一瞬で吹き飛ぶ? たぶん、違う。そんなんじゃあ、あっけなさすぎます。
地球はかいばくだんが正真正銘の最終兵器なら、まさに最後の手段です。ひとまず保留して、もっとほかの手がないか、候補を考えましょう。
どうせすべてが終わるなら、見たこともない景色を最後に見たくはないですか?
今ある社会も、価値観も、日常もひっくりかえる、ド派手なハリウッド映画みたいな終末。例えば「人類を超える存在が地球に攻めてくる」なんてのはどうでしょう。
そこで“人間製造機”です。
「人間を人工的に製造する」という不遜な目的が神の怒りに触れたのでしょう。これから誕生した人間は、既存の人類に対する強い敵意と、超能力をもったミュータントだったのです。
彼らは人間製造機で仲間を増やして、人類を征服しようと企てました。未来の世界では国連軍が出動して鎮圧したけれど、この現代の軍事力ではどこまで対抗できるやら……。
人間製造機を始動したら最後、我々人類をしのぐ超人類による最後の審判が幕を開けます。
今から人類が滅亡するとして、説得力のあるシナリオの一つが「パンデミック」です。
ウイルスや細菌による感染症の爆発的な流行は、いつ巻き起こるやもしれない、もっとも身近な滅亡の危機です。その脅威の一端を我々人類は「コロナ禍」で思い知らされました。
パンデミックの中でも、人間をゾンビ化する感染症が蔓延して世界に終末をもたらす「ゾンビアポカリプス」は、「憧れを禁じえない」という人も多いのでは?
“イキアタリバッタリサイキンメーカー”で生み出した細菌がゾンビ化を引き起こすものだったら……。
「もしもゾンビアポカリプスが起こったら」は、当サイトのお題目「もしもひみつ道具を一つもらえたら」と同様に、話の尽きない妄想です。
まあ現実となったら、ゾンビ映画のモブキャラみたいにあっけなくゾンビになっちゃって、世界の終末を見届けられないかもしれないけれど。
人間を最も殺している生物、それは蚊です。蚊はさまざまな感染症を媒介して、人間を死に至らしめています。
では蚊の次に人間を殺しているのは? そう、ほかならぬ人間自身です。
もちろんほとんどの人は、人をあやめることなく生涯を終えます。でも、もしも人の「善意」が禁じられたら……。
ドラえもんの“十戒石板”は、人がしてはいけないことを定められる石板です。これに戒めを彫りつけると、破った人に雷が落ちるようになります。
公正であるな、慈しむな、謙虚であるな、欲望を抑えるな――。「神の十戒」ならぬ「悪魔の十戒」を打ち立てれば、人類は破滅の道を進むことでしょう。
銃社会の国では、乱射事件がたびたび起こって、多くの犠牲者を出しています。
ところで、ドラえもんの“魔法事典”は、魔法の「効果」と「発動条件」を書き入れると、誰もがその魔法を使えるようになるひみつ道具です。
発動条件を簡単なものにすれば、魔法の詠唱方法が発見されてネットで拡散されるまで、さほど時間は掛からないでしょう。
その魔法の効果が銃をもしのぐ殺傷能力のあるものだったら?
いつでも、どこでも、誰でも、簡単に人の命を奪えるようになって、それでも人類は秩序を守れるでしょうか。
最終兵器でも、ミュータントとの全面戦争でも、ゾンビアポカリプスでも、悪魔の十戒でも、魔法大戦でも、どれでもお好きにどうぞ。ほかにも“バイバイン”や“地底探検車”といった手もあります。
でもちょっと待って! ひみつ道具の力をもってすれば、「世界なんて壊れてしまえ」と思うに至った要因だって打開できます。
ドラえもんがあなたのデスクの引き出しから現れたなら、それは間違いなく吉兆です。そんな幸運をみずからふいにすることはありません。
というわけで、破壊衝動に駆り立てられているときにドラえもんが現れてひみつ道具を一つくれるとしたら、おすすめは「まずはどら焼きを用意して、ドラえもんに話を聞いてもらう」です。
この記事の「ゆっくり解説」版