のび太のママがメイクをしようとドレッサーの前に座ったところ、なんと鏡に幽霊とおぼしき女性の姿が映っていました。
ママは慌ててのび太の部屋に逃げ込みました。するとそこにいたドラえもんが先程の幽霊の絵が描かれている雑誌を持っているではありませんか!
幽霊騒ぎの真相は、“遠写かがみ”というひみつ道具を使ったドラえもんの実験だったです。
ドラえもんの遠写かがみは、遠くの鏡に像を映し出す卓上ミラーです。スイッチを入れると、これに映った像が効果範囲にあるすべての鏡と鏡面状の物(水面やガラスなど)にも映って、そこに音声も届くようになります。
効果範囲は家の中だけから町中まで調節可能。特定の画面を繰り返し映すリピート再生機能もあります。これらの機能は背面の操作パネルで設定します。
「どう考えても使い道がない」と遠写かがみを腐すドラえもんに、のび太はこれでコマーシャルを流す広告代理店をやろうと提案しました。
その目論見(もくろみ)は一応の成功を収めたものの、それは『ドラえもん』の世界の住人たちが「すこしふしぎ」なことを不思議なまま受け入れられる性分だからです。
我々の暮らすこの世界では、遠写かがみのような常識外れでオカルトにしか見えない現象に前向きなリアクションは望めないでしょう。
なんにせよ、「範囲内の鏡すべてに送信する」という大雑把な仕組みな以上、どこかしらに迷惑が掛かります。ドラえもんの酷評どおり、なんとも困ったひみつ道具です。
バックミラーにカーブミラー。鏡は車両を安全に運転するための重要な役割を担っています。そういった鏡に実際の状況と異なる像が映れば、ドライバーが判断を誤って事故を起こすかもしれません。
誰がどんな風に鏡を見てるか分かりもしないのに、やたらと遠写かがみを起動するのは結構危険です。
ドラえもんの言う「使い道がない」とは「まともな使い道がない」という意味でしょう。誰に迷惑が掛かろうと、どんな不測の事態が起ころうと構わない。そんな傍若無人な考えなら、さまざまな使い道があります。
ドラえもんが試しに幽霊を映してみた使い方がまさに遠写かがみの本質です。
鏡と霊的な観念の親和性は高く、数多くの神話や都市伝説が残っています。いるはずのない人や、あるはずのない物が鏡に映ったとき、オカルトを信じていない人でさえ一瞬にして非科学的な想像にとらわれるでしょう。
人に恐怖心を植えつける愉快犯に遠写かがみはうってつけです。
ほかにも、過剰に暴力的だったり性的だったりする映像を無作為に見せつけるイタズラなど、遠写かがみは醜悪な用途に事欠かきません。
SNSに上げた1枚の写真から身バレすることだってあります。遠写かがみを使う際は、身元に関わる情報が写り込まないように細心の注意を払いましょう。
また、遠写かがみの操作パネルにツマミとボタンしかないことから、効果範囲は遠写かがみを中心とした円形だと推定されます。
センセーショナルな遠写かがみの使い方をして騒ぎが大きくなれば、体験談が多数集まって、その現象が起こっている区域が円形であることがおのずと明らかになります。そして当然その中心点に関心が集まるでしょう。
ネットを介した情報共有をくれぐれも甘く見ないことです。
青銅を磨いて作った銅鏡は、宗教的な儀式に用いられてきました。そういった霊力を感じさせる鏡に現代の科学では説明のつかない現象を起こせば、その神秘性を自分のものとしてまとえます。
教祖となり、信者を集め、新興宗教を立ち上げることすらできるかもしれません。もちろん遠写かがみはしょせん小道具なので、教祖としての天賦の才能があればの話です。
凡人が遠写かがみをもらっても、イタズラに使うのが関の山です。実用性より、合理性より、面白さ。それがひみつ道具らしさとはいえ、一つだけよりぬくとなると、やはり実用性は外せません。
というわけで、もしもドラえもんのひみつ道具を一つもらえるなら、遠写かがみの優先度は星
つです。