人生がつまらない、人生に疲れた、人生つらい。
「こんなはずじゃなかった」と、「あのとき、ああしてれば」と、後悔にさいなまれても、人生は決してやり直せません。
そんな折、あなたのデスクの引き出しからドラえもんが現れて、ひみつ道具を一つだけくれるとしたら? さあ、なにを選びましょうか。
ドラえもんがいったいなんのために“タイムマシン”で未来からやってきたかといえば、それはのび太の人生をよりよいものへ変えるためです。
そうか、それなら人生をやり直すのに選ぶべきひみつ道具はタイムマシンか――って待った!
ドラえもんを送り込んだセワシ(のび太の孫の孫)にしてみれば野比家を累々の貧困に落とした先祖の過去だとしても、のび太にとってはまだ見ぬ未来です。
『ドラえもん』はのび太が人生をやり直す物語ではなく、未来を切り開く物語です。
「過去を変える」のと「人生をやり直す」のは異なります。
「10年前のあの日のあの選択」をタイムトラベルで正したとしても、それからの新たな10年を過ごすのは今のあなたではなく、10年前のあなたです。
いったいなにがなにやら……。
なんであれ、人生をやり直すのにタイムトラベルで過去を変えるのは筋が悪い。本当に必要な手段はタイムトラベルではなく、タイムリープです。
過去の自分の肉体に、現在の自分の意識が乗り移る。いわゆるタイムリープをしてこそ、初めて本当の意味で人生をやり直せます。
それを実現するひみつ道具が“人生やりなおし機”です。そうです、そのまんまです!
これのヘッドギアを装着して、戻りたい年齢を指定すれば、そこから二度目の人生が始まります。
去年か一昨年か、それとも中2の夏休みか。人生の岐路になったあの日へ……。
ただし人生やりなおし機は「何歳何か月の時へタイムリープするか」を指定する方法が恐ろしい。年齢を示す目盛りが勢いよく動き続けるので、タイミングよく実行ボタンを押さなければなりません。
しかも人生やりなおし機によるタイムリープは片道切符です。それ相応のリスクがあります。
さあ覚悟を決めて実行ボタンを押しましょう。今の知識と知恵をもってやり直せば、きっと望みどおりの人生に――なる?
過去へ戻ってやり直したからといって、必ずしも人生が好転するとは限りません。自分が自分であることに変わりないことを肝に銘じておくべきでしょう。
人生をやり直してもうまくいかないかもしれないし、時間跳躍によるタイムパラドックスが起こってとんでもないことになるかもしれません。
タイムトラベルもタイムリープもしないで、過去における人生の重大な選択を変えられたとしたら。“もしもボックス”なら、そんなことが可能です。
もしもボックスに「もしもあのとき○○していたら」と告げれば、そこはもう望みの世界です。
進学、就職、転職、結婚。あれが人生の岐路だったという選択を、何度でも納得がいくまで変えられます。
もちろんそれは「人生をやり直す」とは違う話になるけれど、より確実で、より安全なことを考えれば、悪くない妥協案でしょう。
ただし! これは条件に合ったパラレルワールドへ移っているのだと、ドラえもんとドラミちゃんが大長編『のび太の魔界大冒険』で明言しています。
つまり、もしもの世界で人生を送ることは、元の世界を捨てることにほかなりません。これをどう捉えるかは人生観によって大きく異なるでしょう。
パラレルワールドへの移住。あなたはどう考えますか?
人生とまではいわない、せめて数日だけでもやり直せたら。そんな願望にうってつけのひみつ道具が“フリダシニモドル”です。
このサイコロを振れば、一日から数日前に時間が戻ります(1)。自分以外のすべての時間が遡るから、タイムパラドックスの心配も(たぶん)ありません。
なにか大きな失敗をやらかして、リカバリーのしようがなかったら、これでその日をリセット。納得のいく結果が出るまで何度でも繰り返せます。
その代償は人より早く老いること。
これで世界をリセットしても、あなたはリセットされません。リセットした分だけ、世界より余計に長く時間を過ごしたことになります。
数日の時間差だって積み重なればすぐに年単位になります。あまり甘く見ないほうが身のためです。
(1)フリダシニモドルの効力は、登場エピソードにより異なります。当ブログでは、てんとう虫コミックス『ドラえもん』第23巻「ハッピーバースデイ・ジャイアン」と、第35巻「ぐ~たらお正月セット」を参照しています。
人生をやり直して、はたして本当に幸せになれるのでしょうか。藤子・F・不二雄先生は多分に懐疑的だったようで、人生やりなおし機が登場するエピソードでドラえもんにこう言わせています。
「こんな機械にたよるより、人間の中身を変えていかなきゃ」
てんとう虫コミックス『ドラえもん』第15巻「人生やりなおし機」より
でも、今を生きる上で背負っている(あるいは背負わされている)苦しみは一人ひとりまるで違います。人生をやり直すほかない、という境地もあることでしょう。
人生はあまりにも複雑です。やり直したって好転するとは限りません。それでも、知識と、それを基にした知恵は強大な力となるから、チャレンジする価値はあるはずです。
というわけで、「過去は変えられなくても、未来は変えられる」みたいな正論に心底うんざりした人におすすめのひみつ道具は、人生やりなおし機です。