クリスマスプレゼントを一日も早くもらいたいとぼやくのび太のために、ドラえもんは“日づけ変更カレンダー”を出しました。
これがなんとも身勝手なひみつ道具で……。
ドラえもんの日づけ変更カレンダーは、周囲の日付を変更する腕時計です。これの竜頭(りゅうず)を回して日付を変えると、近所だけ、その日になります。
原作では、日づけ変更カレンダーが「人をだます道具」だと示唆されています。時間の流れを操るのではなく、周囲にいる人の日付に関する認識を操っていると推定されます。
つまりはある種の洗脳装置です。
日づけ変更カレンダーを使えば、自分の都合に合わせて、約束の期限を早めたり先送りしたりできます。しかし一時的かつ局所的に人の認識をまやかすだけでは、しょせんはその場しのぎに過ぎません。
人はみなそれぞれの予定で動いているので、日付を変えるだけでは思惑どおりにことが進まないでしょう。結局は人を誘導するのにかなりの労力が強いられます。
よほど切羽詰まった状況なら、緊急措置として日づけ変更カレンダーが役立ちます。最終的には自力で問題を解決する必要があるとはいえ、時間稼ぎができるのは大きなアドバンテージです。
日づけ変更カレンダーで日付を変えられた玉子(のび太ママ)は、本当の曜日を伝えているテレビ番組を観ても、自分の認識している曜日のほうが正しいと信じて疑いませんでした。
日づけ変更カレンダーの洗脳力はそれほど強力です。
うっかり金融街で日付を変えでもしたら、大混乱に陥って経済に打撃を与えてしまう危険性があります。間違った日付をみなが一斉に信じた集団ヒステリーとして、歴史に残る事件となるでしょう。
前項のような混乱を招くのは犯罪です。たとえ意図的でなくとも、たちの悪い過失犯でしょう。そもそも人の認識を勝手に操作すること自体がモラルに反する行為です。
日づけ変更カレンダーの見た目はただの腕時計だし、作動を知らせる表示もなければ音もしません。これが人の認識を操る特殊な存在だと示す要素は一つとしてありません。
特別の配慮をしなくても、秘匿性を守れます。
ただし各地で混乱を巻き起こし続けると、いつかは「不自然な集団ヒステリー」として捜査されて、「すべての現場で防犯カメラに映っている人物」として目をつけられるかもしれません。
人の認識を特定して外部から操作するのはいうまでもなく革命的な技術です。しかしその特定が日付とあっては人類の発展に寄与することはないでしょう。
日づけ変更カレンダーを使ったのび太は、すったもんだしたあげく面倒なことになっただけでした。これはのび太が特別ドジだったというわけではなく、誰が使っても往々にして同じような結果になるように思えます。
なにか意外な活用法がありそうだけど、どうにもひらめきません。というわけで、もしもドラえもんのひみつ道具を一つもらえるなら、日づけ変更カレンダーの優先度は星 つです。