もしもドラえもんからひみつ道具を一つだけもらえるとしたら――。
そんな妄想にふけるなら、それ一つでなんでもできる万能なもの、いわば「最強のひみつ道具」を考慮したうえで「それを選ぶか、あえて外すか」まで追求したほうが盛り上がります。
そこで『ドラえもん』にときおり登場する「これさえあれば、ほかのひみつ道具はいらないんじゃね?」という最強候補のひみつ道具を万能度順に紹介します。
万能なひみつ道具の代表格が“ソノウソホント”と“ウソ800(エイトオーオー)”です。すくなくとも原作で開示された情報の限りでは、これらに不可能はありません。
嘘が本当になるソノウソホント。本当が嘘になるウソ800。性質が真逆でも、真に万能ならその性質さえ改変できるから同じことです。
あらゆる災厄を遠ざけ、あらゆる幸福を引き寄せる。あったことをなかったことに、なかったことをあったことに。人の望みを叶え、人の希望を打ち砕く。
これは「神の力」といっても過言ではありません。「最強」なんて言葉がチャチに思える、もっと恐ろしいものです。
望みをなんでも叶えられることに魅了されないわけがないけれど、同時に強大な力がもたらす恐怖におののかされるひみつ道具です。
動画でひも解く「ソノウソホント」と「ウソ800」
「万能なひみつ道具」としてもっとも知られているのは“もしもボックス”でしょう。ところがその実際の効力は「万能」というイメージからちょっとズレています。
大長編『のび太の魔界大冒険』におけるドラえもんとドラミちゃんによる説明によると、もしもボックスは「パラレルワールドへの入口」だと推定されます。
「今いるこの世界を変えたい!」と望む人にとっては残念な効力です。逆にいえば、「世界を改変するのは気が引ける」という人にとっては最強の効力となります。
もしもボックスが実現する世界、それは「自分の、自分による、自分のための世界」です。そこで過ごす時間は、究極の経験となるでしょう。
未来の日記を書き込むと、絶対そのとおりになる。それが“あらかじめ日記”です。“デスノート”を連想させる、人気のひみつ道具です。
ただし、あらかじめ日記を使う際は「現実的なプロセスを経て実現する」という特性に注意しないといけません。
例えば「大金が手に入った」と書いたら、事件や事故に巻き込まれた末の「示談金」になるかもしれないし、家族が死んだ「保険金」になるかもしれないのです。
安全に使うには、結果に至るプロセスを詳細に書いた、不測の事態が起こりえない厳密な日記を完成させる必要があります。
あらかじめ日記は極めて危険です。ちなみに登場話のタイトルは「あらかじめ日記はおそろしい」です。
この初めはなんにも書かれていない“魔法事典”に魔法の「効果」と「発動条件」を書き入れると、誰もがその魔法を使えるようになります。
「自分の好きなように魔法を創造できる」なんて能力者がバトル漫画に登場したら、はたして物語に収拾がつくでしょうか。
まさしく最強。バランスブレイカーです。
「ドラえもんのひみつ道具を一つだけもらえる」という条件をものともしません。ひみつ道具をいくつももらって使い分けるより、魔法事典一つで済ませたほうが、むしろ話が早いくらいです。
問題は「魔法事典で実現した魔法はみんなが使える」という特性です。他人に魔法を使われる事態を予防する発動条件にしておかないと大変なことになるので、くれぐれも気をつけましょう。
独自に考えた法案を施行できるひみつ道具が“ポータブル国会”です。法案を書いた紙をこれに入れると、すぐさま日本中の国民がその法案に従い始めます。
影の支配者として日本に君臨して、社会を好きなときに好きなように変革できるのです。
ただし、ポータブル国会には――ひみつ道具にしては珍しく――安全装置が掛けられています。あまりに無茶な法案をとおそうとすると、「カイサン💥」という音と共に自爆して、今までに施行したすべての法案が無効になります。
それでもなお、とんでもない影響力を持つことに変わりありません。文字どおりの「革命」を日本にもたらすひみつ道具です。
動画でひも解く「ポータブル国会」
“悪魔のパスポート”は、どんな悪いことをしてもこれさえ提示すれば許される、「究極の贖宥状(免罪符)」です。ただ悪行のためだけにあるその恐ろしさゆえに、ドラえもんが焼き捨てようとしていたひみつ道具です。
殺人だろうがなんだろうがおかまいなし。思うままに悪行を重ねられます。最強? いや「最凶」です。
すこしでも慈悲や思いやりといった良心がある人にとってみれば「最恐」のひみつ道具です。犠牲者が出ないうちに、一刻も早く焼き捨てなければなりません。
動画でひも解く「悪魔のパスポート」
“かならず実現する予定メモ帳”は、書き入れた予定が必ず実現するメモ帳です。4つの項目を埋めて文章を完成させると効果が発動します。
あらかじめ日記と同様に、必要なプロセスを経て実現するタイプで、その傾向はより顕著です。
ピタゴラ装置か、はたまたバタフライ効果か。「風が吹けば桶屋が儲かる」がごとく、身の回りの出来事が次々と連鎖して実現へ向かいます。
実現困難な予定は現実的な出来事に矮小化されます。例えば「しずちゃんがのび太に今ここでチューをする」という予定は、「しずかちゃんの万年筆からインクがチューっと飛び出てのび太の顔にかかる」という形で実現しました。
穴埋め式という制約、予測不能なプロセス、そして矮小化。かならず実現する予定メモ帳の万能性は限定的です。
けれど強大な力にはそれ相応の責任が生じることを踏まえると、この程度の万能性で手を打つのが賢明な選択かもしれません。
“オールマイティーパス”は、万能な許可証です。これを係員に見せると、あらゆる制約をパスできます。
電車も飛行機もタクシーも乗り放題。ホテルも旅館も泊まり放題。イベントもライブも美術展も見放題。立ち入り禁止エリアも大人のお店だって入り放題です。
これだけできれば、具現化や世界を改変する効力がなくたって十分でしょう。
しかし残念なことにオールマイティーパスには有効期限があります。改変能力がないのでこの期限は延ばせません。この一点で決定的に見劣ります。
そのぶん使い方は単純明快だし、世界を変えてしまうおそれもないし、あまり深く考えずパッと刹那的に楽しむにはもってこいです。
これらのひみつ道具は強力すぎるバランスブレイカーだからか、さまざまな形で『ドラえもん』の物語から退場しています。
ウソ800 → 効果時間を永続化するなどの対処をしないまま使い切った。
もしもボックス → 大長編『のび太の魔界大冒険』にて玉子(のび太のママ)がゴミ収集に出した。
あらかじめ日記 → のび太の命にかかわる危険な文章を無効化するために焼き払った。
悪魔のパスポート → ドラえもんが焼き捨てた(と推定される)。
かならず実現する予定メモ帳 → 真に万能とはいえない。
オールマイティーパス → 有効期限切れ。
残るソノウソホントと魔法事典は、なぜか再登場しませんでした。それ一つであまたのひみつ道具の効果をカバーできるはずなのに!
本当に全能だったら宇宙を壊しかねないので、実際はかなりの制約があるのかもしれません。
『ドラえもん』はSFはSFでも、あくまで「すこしふしぎ(Sukoshi Fushigi)」な作品だから、ひみつ道具の機能や効果は曖昧でいい加減です。
つまるところ、「最強のひみつ道具はどれか」の答えは『ドラえもん』の読者一人ひとりの中にあるのです。