もしも「あらかじめ日記」をもらったら

海へ山へと家族旅行に出かけて、のび太とドラえもんはすっかりご満悦です。どうやらのび太の都合よく野比家が回るようにあらかじめ決められているようです。

その秘密は、ひみつ道具の“あらかじめ日記”にありました。

機能と効果

ドラえもんのあらかじめ日記は、未来の日時の日記を書き入れると、絶対その内容のとおりになる日記帳です。

本当なら起こりそうもないことでも実現します。1秒でも未来のことなら効果が生じるので、ほぼリアルタイムの出来事もコントロールできます。

あらかじめ日記に一度書いた文字はどうやっても消せません。内容を修正するには、文をうまく書き足して文章の意味を変えるしかありません日記を丸ごと取り消す方法はただ一つ、あらかじめ日記を焼き払うことです。

日記を書き入れたのが誰だとしても効果は生じます。ただし誰の出来事であるかを示す主語が省略された文章は、書き入れた人にかかわらず、あらかじめ日記の所有者の身に起こります。

なにをもって所有者と見なすかは不明。あらかじめ日記が登場する原作エピソードの描写から鑑みて、最初に日記を書き入れた人が所有者と見なされると推定されます。

1ページが1日分で、日付は記入式です。総ページ数は不明のため、365ページだと仮定します。

有用性: ★★★★☆

近似するひみつ道具の“必ず実現する予定メモ帳”が文章を拡大解釈するのとは違って、あらかじめ日記は書き入れた日記を忠実に実現します自分にとって有益な一日をいつでも好きなように過ごせるのだから、まさに夢のひみつ道具です。

しかし有用だと手放しにはいえません。日記の内容に他者が関わる場合、それが彼らにとっては望まぬ出来事かもしれないからですのび太はあらかじめ日記を使って家族旅行に何度も行くことを楽しんだけれど、両親は疲れ果ててしまいました。

社会に身を置く以上、他者の関与は避けられません。結果的に周囲が迷惑をこうむるケースが頻発するのが難点です。

さて、あらかじめ日記の使い道を思い描いていくと、「いったいどこまで世界を操れるのか」という疑問に突き当たります。

基本的に個人の経験をつづるものである「日記」という体裁をとっていることから、“ソノウソホント”や“ウソ800(エイトオーオー)”ほど全能ではないと思われます。

あまりにも強力過ぎるひみつ道具は破滅と表裏一体です。全能でないことは、必ずしもマイナス点とは限りません。あらかじめ日記が全能でないとしたら、むしろ歓迎すべきでしょう。

危険性: ★★★★★

あらかじめ日記は書き入れた文章を拡大解釈しません。しかし行間は補完します。日記に書いた出来事に至るまでに足りないプロセスはあらかじめ日記まかせです。

例えば「大金が手に入ることになった」と書いたとしましょう。その大金とは事件や事故に巻き込まれた示談金かもしれないし、家族が死んだ保険金かもしれません。

つまり望みがかなうのと引き換えに大切なものを失ってしまう恐れがあります。

あらかじめ日記を安全に使うには、結果だけを書くのではなく、そこに至るプロセスを詳細に書かねばなりません前もってしらみ潰しに推敲を重ねて、不測の事態が起こりえない厳密な日記を完成させてからあらかじめ日記に書き入れましょう。

そういった、きちんとした文章を書くとなると意外に難しいものです。作文を勉強しなおすくらいの慎重さが求められます。

<新版>日本語の作文技術 (朝日文庫)
タイプ:
Kindle版
著:
本多 勝一
発売日:
2016年12月13日
発売元:
朝日新聞出版

ちなみに原作エピソードのタイトルは「あらかじめ日記はおそろしい」です。

悪用度: ★★★★★

人の運命を操れるあらかじめ日記は、使い方しだいで“デスノート”さながらの「悪魔の日記」と化します。

たとえ些細なことでも、人の意思に反した行動をとらせるのは悪用です。

秘匿性: ★★★★★

あらかじめ日記に書き入れた未来付けの日記は予言にほかなりません。誰かに読まれてしまうと秘匿性が危ぶまれます人の日記を盗み読みそうな悪趣味な人が身近にいるならば、保管場所に注意が必要です。

すでに現実となった過去の分はもはや普通の日記だし、あらかじめ日記そのものはなんの変哲もない日記帳です。それらは見られても問題ないでしょう。

あらかじめ日記によって行動を左右された人は、運命のいたずらだと感じることはあっても、それが人為的なものだとは知る由もありません。

革命度: ★★★★★

世の事象を操れるあらかじめ日記はいわば神の手です。

まとめ

あらかじめ日記は(例外はあるものの)ドミノ倒しのように出来事を連鎖させて実現します。このプロセスは明らかにリスク要因です。万能系ひみつ道具だからといって、無条件には選べません。

最強クラスのひみつ道具の中では、ソノウソホントかウソ800なら不確定要素となるプロセスを飛ばして単刀直入に実現できます。

必ず実現する予定メモ帳なら実現しそうもない出来事は現実に起こりうる範囲に矮小化(わいしょうか)されるから比較的気軽に使えます。

それらに比べるとあらかじめ日記はリスクの高さと使い勝手の悪さが目立ちます。

というわけで、もしもドラえもんのひみつ道具を一つもらえるなら、あらかじめ日記の優先度は星3つです。

道具名称:
あらかじめ日記
原作初出:
『ドラえもん』第16巻「あらかじめ日記はおそろしい」
カテゴリ:
「あ」で始まるひみつ道具 / 『ドラえもん』第16巻 / 万能
公開日:
2015年11月16日

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