身のまわりにある物品がどんな原料からできているか調べる宿題を手伝ってほしい。ドラえもんはのび太にそう頼まれました。
いつものろくでもないお願いとは違うまともなことだったので、ドラえもんが喜び勇んで貸してあげたひみつ道具が“もどりライト”です。
ドラえもんのもどりライトは、物品の原料を調べられる懐中電灯です。
これの光を物品に当てると、原料に戻ります。原料は使われている量とは無関係に丸ごと一つ現れます。複数の原料が使われていても、現れるのは無造作に選ばれた原料一種類です。
もどりライトが登場する原作エピソードでは、ノートは一本の木に、バイオリンの弓は一頭のクジラ(1)に、それぞれ戻りました。
原料に戻してから30分経つと、元の物品に復元します。
照射する光の範囲を狭めたり広めたりする調節機能も備えています。
(1)バイオリンの弓でクジラのヒゲが使われているパーツは、弓毛ではなくラッピングです。ラッピングとは弓を持ったときに人差し指が触れる部分です。またラッピングの素材はクジラのヒゲとは限りません。
弓毛は主にウマの尾毛です。『ドラえもん』における描写が曖昧だったことから、「バイオリンの弓毛はクジラのヒゲ」という誤解が広まったといわれています。
「使用量を問わず丸ごと一つの原料に変化させる」のは、特定の物品を増量させられる特性です。しかしもどりライトは「30分後に元どおりに復元する」という特性も併せ持つため、残念ながらそれは実現しません。
物品を増量させるひみつ道具なら、“バイバイン”が(良くも悪くも)究極です。もどりライトの特性を回避して増量させる方法を試行錯誤するまでもありません。
原作エピソードでドラえもんは「原料を調べる機械」としてもどりライトを出しました。それが本来の用途だとしても、使われている原料のうち一つしか特定できないのでは、機能不全なひみつ道具です。
そのせいでバイオリンの弓毛がクジラのヒゲだと誤解されるきっかけを作ってしまったのですから。
原料が木で、しかもそれが巨木だったら? もどりライトの「使われている量にかかわらず、丸ごと一つの原料に変化する」という特性を甘く見ると、建物を破壊することになりかねないでしょう。
なにが原料なのかわからない物品にもどりライトを使う際は、室内は避けるべきです。
もどりライトはどんな物品でも強制的に原料へ戻せます。これは結構たちの悪い機能です。たとえば着衣に当てれば木や石油などになるので、人を無理やり全裸にさせられます。服に限らず、原料へ戻るのは基本的に不都合な結果となります。
照射範囲を最大に設定して、手当たりしだいに光を当てまくれば、街中を混乱の渦に陥れられるでしょう。
日差しの中なら光はたいして目立たないので、もどりライトの本体をバッグなどに隠して光だけを外に出せば、犯人だとはそうそうバレません。そもそも、その現象があまりにも現実離れしていて、人為的なものだと思い至る人は限られるはずです。
もどりライトが起こす現象は派手で人目を引くものです。けれどもその現象ともどりライトとの因果関係を、事前情報なくして確信するのは難しいでしょう。
見せびらかすなど、よほどあからさまなことでもしない限り、一定の秘匿性は守れます。
“タイムふろしき”で物品の時間を逆行させて原料に戻すのなら、まだ理屈がわかります。それに比べてもどりライトは突飛すぎてまるで理屈に合いません。
「革命的」という言葉がふさわしいかはさておき、もどりライトが宇宙の法則を超越した存在であることは間違いないでしょう。
食品偽装が明らかになった件を挙げていくと枚挙にいとまがありません。原料を調べられるハンディータイプの道具があるなら、食の安全を守るのために是非とも欲しいところです。
そこでもどりライトの出番! とはならない迷惑な特性を持っているのが惜しい。原料がシンプルに表示されるだけならよかったのだけど、そこは荒唐無稽なのが魅力の一つでもあるひみつ道具だから仕方のないことです。
というわけで、もしもドラえもんのひみつ道具を一つもらえるなら、もどりライトの優先度は星
つです。