のび太は「この町の歴史を調べる」という夏休みの宿題を“タイムマシン”でサクッと終わらせようと思っていました。
けれどなんの当てどもなくタイムマシンで時代を転々としながら町を見て回るのは、参考文献で歴史を調べるより、むしろ骨が折れます。
そのことに夏休みが終わる直前に気がついて慌てふためくのび太のために、ドラえもんは一肌脱いでひみつ道具の“タイムカメラ”を貸してあげました。
連載当時は「時間カメラ」と呼称されていました。
ドラえもんのタイムカメラは、時間を遡(さかのぼ)りながら撮影するロケット型カメラと、その画像を受信してプリントアウトする現像機のセットです。
現像機はコントローラーも兼ねた端末で、タイムカメラの滞空高度や撮影スケジュールを調節できます。
水平方向へは動かせないので、過去を見たい地点で打ち上げなければなりません。
タイムカメラは現代に戻ってこられるけれど、そこからさらに未来には飛べません。タイムトラベルで行けるのは、現像機のおいてある時代を基準とした過去だけです。
我々の知っている「歴史」とはその痕跡の積み重ねから推測されたもので、それが「史実」だとは限りません。新たな発見によって歴史が塗り替えられるのはよくある話です。
タイムカメラを使えば、より正確に、より効率よく、歴史を明らかにできます。驚くべき発見の数々がもたらされるでしょう。
人類が歴史から学ぶことは多く、その有用性は多大です。しかし封印された不都合な真実をも掘り起こし兼ねないタイムカメラの存在を公にすれば、横やりが入るのは必須です。
公共利用はさておいて、タイムカメラは独り占めしたほうが身のためかもしれません。『ブラタモリ』(1)の放送を毎回楽しみにしているタイプの人なら、それでも極上の娯楽として十分過ぎるほど楽しめるでしょう。
(1)街歩きの達人タモリさんが、ブラブラ歩きながら知られざる街の歴史や人々の暮らしに迫るテレビ番組。www.nhk.or.jp/buratamori/
もしかしたらタイムカメラに見てはいけないものが写るかもしれません。藪(やぶ)をつついて蛇を出すことになって、自分の存在が歴史から消されてしまう。そんな陰謀論めいたことは起こり得ない? 本当にそうでしょうか。
カメラの悪用といえば盗撮です。そしてタイムカメラの「過去に遡って撮影する」という特性は秘密を探るのにうってつけです。
しかしタイムカメラは小型とはいえロケットなので、室内などの限られたスペースで飛ばすのが難しい上に、普通のカメラよりはるかに目立ちます。盗撮を初めとする悪用にはあまり向いていません。
たとえ1メートルにも満たないミニサイズだとしても、空飛ぶロケットは人目を集めます。タイムカメラの写真を撮られてSNSでシェアされるのは時間の問題です。
タイムカメラを目撃された時刻とは違う時間から操っているとはいえ油断はできません。打ち上げと回収という一番目立つ場面では同じ時間にいるほかないのですから。
人類の進化の軌跡、そして宇宙の起源。タイムカメラがどこまで時間をさかのぼれるのかは不明だけれど、もしかしたらこの世界と我々人類の生まれた理由がわかるやもしれません。
世界の成り立ちを知る足掛かりとなるタイムカメラは、飽くなき知的欲求に応える優良ひみつ道具です。
ただしひみつ道具には、ロケットなどを飛ばすことなく、テレビ型端末だけでこれと同じ用途を成す“タイムテレビ”もあります。それと比べたら、タイムカメラの優位性は端末で画像をプリントアウトできることくらいです。
どちらか選ぶなら、もちろんタイムテレビでしょう。というわけで、もしもドラえもんのひみつ道具を一つもらえるなら、タイムカメラの優先度は星
つです。