のび太とドラえもんが物置を片づけているときに見つけたフォトアルバムには、のび太の幼いころの優しい思い出が詰まっていました。
なにかとママにがみがみ言われる今よりも、あのころはよかったな、帰りたいな。そんな思いにとらわれたのび太に、ドラえもんが貸し与えたひみつ道具が“タマシイム・マシン”です。
ドラえもんのタマシイム・マシンは、一時的なタイムリープを実現する機械です。
これのノズルを頭につけて、「いつの日時へ戻るか」の設定と「その時代でどれだけの時間を過ごすか」のタイマーをセットして起動すると、魂だけが抜け出して、過去の体に乗り移ります。
タイムリープした先の時代で過ごした時間の分だけ、元の時代の時間も進みます。過去で1時間過ごした場合、タマシイム・マシンを起動してから1時間後の現代に戻ります。
現代の体は魂が抜けているあいだ仮死状態になります。非常に危険な状態のため、タイマーの最大設定は数時間までだと推定されます。
タマシイム・マシンがあれば、自分の人生に起こった特別な体験を何度でも楽しめます。
ただし、そのとき限りのことだったからこそ「特別」なんです。繰り返し体験したならば、思い出はすぐに色あせてしまうでしょう。
ならばもっと大胆に、人生の転機となった選択をやり直す?
その場合は当然ながらタイムパラドックスという大きな問題がのしかかります。『ドラえもん』の世界におけるタイムトラベルのルールは曖昧で流動的です。
タマシイム・マシンによるタイムリープ中にその後の人生が変わるような行動をとると、なにが起こるか分かりません。よほどの事情がない限り、歴史に歯向かうのはやめるべきです。
タマシイム・マシンでタイムリープしているあいだ、元の時代の体はまったくの無防備です。必ず身の安全が確保された状態で使いましょう。
そのほかにも、現代の魂が乗り移っているあいだに過去の魂がどうなっているのか不明な点や、タイムパラドックスなど、不安材料は多いです。
タイムリープという(我々現代人にしてみれば)神の領域に足を踏み入れるからには、それ相応の危険は覚悟しなければなりません。
タイムリープした過去で悪さをすれば、当然その罪と罰は現代の自分に継承されます。誰かの過去をゆがめれば、自分の過去もゆがみます。
タマシイム・マシンは悪事には不向きです。
魂の存在はまだ証明されていません。そして過去へのタイムトラベルは不可能だと多くの研究者が結論づけています。我々が暮らすこの現代においてタイムリープは絵空事、いってしまえばオカルトです。信じてもらうほうが難しいくらいでしょう。
黙って一人で使う分には、タマシイム・マシンの秘匿性に問題は生じません。
ドラえもんやのび太が“タイムマシン”などのひみつ道具で過去に干渉したとき、歴史の反作用はさまざまでした。
初めから歴史に組み込まれていたり、なにをしても元の歴史に収束したり、歴史が部分的に変わっても大局は変わらなかったり(1)……。
タマシイム・マシンによる過去へのタイムリープで歴史が変わるか否かは定かではありません。
もしも歴史を変えられるとしたら、それは人知を超えた「神の力」です。でもたぶん、タマシイム・マシンにそれだけの力はないでしょう。
(1)のび太がジャイ子と結婚しても、しずかちゃんと結婚しても、結局セワシは生まれます。
タマシイム・マシンがあれば、過去に体験したあんなことやこんなことを生々しく何度でも反芻(はんすう)できます。
でもそれって「後ろ向き」といえば後ろ向き。新しくて刺激的な体験を得られるひみつ道具がいくらでもあるのに、わざわざ思い出にとらわれることもないでしょう。
ちなみに、過去の過ちをどうしても正したいなら、“人生やりなおし機”のほうがあつらえ向きです。
というわけで、もしもドラえもんのひみつ道具を一つもらえるなら、タマシイム・マシンの優先度は星
つです。