月刊誌『小学四年生』の今月号を読み終わってまだ物足りないのび太は、子孫のセワシも未来で『小学四年生』を購読していることを思い出しました。
そこでドラえもんにおねだりして、セワシの『小学四年生』を“タイムマシン”で取ってきてもらいました。それに付いていた付録の一つが“日本一周大旅行ゲーム”です。
ドラえもんの日本一周大旅行ゲームは、未来の学習雑誌『小学四年生』(1)2125年2月号の付録のすごろくです。止まったマスの地方にプレイヤー自身が実際に瞬間移動して、日本各地を巡ります。
付属の専用サイコロは、中にすごろく盤が映っていて、参加プレイヤーの現在地を確認できます。さらにサイコロ間の通話機能も備えているため、プレイヤーが日本各地に散らばっても支障なくゲームを進められます。
マスは現実の交通機関を模しているので、上がり(ゴール)までの経路はいくつもあります。分岐点でどの方向へ進むかは口頭で指定します。
付属する専用サイコロの個数は、原作で視認できる7個とします。よって最大プレイヤー数は7人です。
(1)2017年6月23日に放送されたアニメ版では、『コロコロコミック』をもじった『ゴロゴロコミック』とされました。ちなみに現実の『小学四年生』は2012年3月号を最後に休刊中です。
ごく短期間で実際に日本を一周できるなんて! 日本一周大旅行ゲームは大人でも絶対に盛り上がれるでしょう。娯楽性は満点です。
しかし今は2125年よりずっと過去なのが問題です。瞬間移動する人を現代人が目の当たりにしたら、ただでは済みません。騒ぎになるのは必至です。
瞬間移動は人類が手にするにはまだ早い絶大な力です。それだけにひみつ道具で瞬間移動するならば、目的地の様子を千里眼で確認して人目を避けられる“エスパーぼうし”を選ぶなどして、秘匿性を保つべきでしょう。
もちろん、後先考えずに身バレ上等で使うのもまた一興です。社会問題になるまでは、ゲームとしても移動手段としても有用この上なく使えます。
日本一周大旅行ゲームの対象年齢は小学四年生だから、子供だけで遊べる安全対策――たとえば台風が来ている地域はスキップされるなど――が施されているはずです。
ただしこの現代で遊ぶケースは考慮されていないでしょう。2125年とは異なる環境が原因となる危険にも対策されているかはわかりません。思わぬ落とし穴がある恐れがあります。
瞬間移動は悪事との親和性が極めて高い能力です。たとえ移動先がサイコロ任せだとしてもです。
瞬間移動が絵空事だと思われている現代では、瞬間移動を用いた事件が立証されることはありません。
もちろん自由自在に空間をつなげて移動できる“どこでもドア”の悪用性に比べれば、日本一周大旅行ゲームの悪用性など屁(へ)みたいなものだといえます。
防犯カメラやドライブレコーダーやスマホで街頭の至るところが撮影されています。到着地点を詳細に指定できない日本一周大旅行ゲームを使えば、かなりの確率で瞬間移動する場面を録画されてしまいます。
録画されたが最後、ネットで拡散されて、身バレするのは時間の問題です。
日本一周大旅行ゲームによる瞬間移動は日本国内限定、しかも到着点は屋外です。あくまですごろくとして作られただけあって、これを用いてなにか社会を変革するような大ごとを成し遂げるのは難しいでしょう。
単純な娯楽性でいえば、日本一周大旅行ゲームはひみつ道具の中でもトップクラスかもしれません。
けれど我々が暮らすこの世界は、ひみつ道具の存在を誰ひとり気にも留めない『ドラえもん』の世界とは違います。気軽にプレイするわけにはいきません。
純粋に瞬間移動する装置として使うには中途半端だし、なんとも惜しいひみつ道具です。というわけで、もしもドラえもんのひみつ道具を一つもらえるなら、日本一周大旅行ゲームの優先度は星
つです。