クリスマスパーティーの出し物に手品をやって、みんなを「アッ!」と言わせたいのび太は、テレビで観た手品を見よう見まねで練習しました。けれども不器用な上に、手品にタネがあることも理解していないありさまです。
当然うまくいくわけがなく、のび太がいつものようにドラえもんに泣きついて出してもらったひみつ道具が“エスパーぼうし”です。
ドラえもんのエスパーぼうしは、指差した手が上に付いている形の帽子で、これをかぶるとテレキネシス(念力)・テレポーテーション(瞬間移動)・クレヤボヤンス(透視)の三つの超能力が使えるようになります。
テレキネシスは物体を触らずに動かす力。テレポーテーションは物体を離れた空間へ瞬時に転送する力。クレヤボヤンスは遠く離れた場所を見たり、遮蔽物を透かして見たりする力です。
ただしエスパーぼうしによる超能力は、かなり練習しないと使いこなせません。
エスパーぼうしを語る上で欠かせない比較対象が“E・S・P訓練ボックス”です。同じ三つの超能力を使える、そっくりなひみつ道具です。
着用中しか超能力を使えないエスパーぼうしと違って、E・S・P訓練ボックスは、一度会得すれば本体がなくても超能力を使えます。まさに超能力者(エスパー)になれるのです。これは大きな優位性です。
ではエスパーぼうしはただの下位互換品かというと、そうでもありません。エスパーぼうしの優位性、それは遠く離れた場所を見とおす超能力、いわゆる「千里眼」を使えることです。E・S・P訓練ボックスの透視能力には千里眼は含まれません。
(英語圏では、日本における透視と千里眼を合わせて「クレヤボヤンス【Clairvoyance】」と呼ぶそうです)
千里眼は人の視覚を超えた、いわば「神の視点」です。効果範囲内のすべてを、その場に行くことなく、手に取るように確かめられます。これは瞬間移動する際に移動先を事前に確認するすべにもなるため、大きな相乗効果を見込めます。
そうした超能力を駆使すれば、アメコミに登場するスーパーヒーローがごとく多くの人を救えるでしょう。もちろんもっと身近な、毎日のちょっとしたことにも便利に使えます。小さなことから大きなことまで、その応用範囲は膨大です。
エスパーぼうしによる超能力を完璧にコントロールできるようになるまでは、アクシデントを避けられないでしょう。これだけの効力だと、ただごとでは済まないおそれがあります。
特にテレポーテーションは、転移先の状況しだいでは死亡することすらあるでしょう。事前にクレヤボヤンスで転移先の状況を確認しておくのを忘れてはいけません。
まずは小さくて柔らかい物体をテレポーテーションさせる練習から始めて、自分自身を移動させるのは使いこなせるようになってからにしたほうが身のためです。
テレポーテーションによる不法侵入を皮切りに、超能力はあらゆる犯罪行為を助長します。
エスパーぼうしを使いこなせるようになって、テレキネシスの精度が高いレベルに達すれば、人の血管を閉塞させて心筋梗塞や脳梗塞を起こさせるのもお手のものです。その死が病気ではなく、人為的なものだと証明することは不可能でしょう。
事が大きくなるのをいとわないなら、さらにやりたい放題です。
人々を救うスーパーヒーローになるか、それとも悪行の限りを尽くすスーパーヴィランになるのか。それはエスパーぼうしの力を手にした者しだいです
クレヤボヤンスはその性質上、効果を視認できるのが使用者だけなので、人に知られようがありません。
しかしテレキネシスとテレポーテーションは、はたから見ても明らかに超常現象です。特に自分の体を浮かせたり、転送するのを目撃されるのはもってのほかです。
奇抜な見た目の帽子をかぶっている時点ですでに注目を集めてしまっていることを忘れてはなりません。
エスパーぼうしの力を十二分にふるえば、英雄もしくは悪人として歴史に名をのこすほどの偉業もしくは蛮行を成し遂げられるでしょう。
エスパーぼうしで使える超能力は、テレキネシスは“タケコプター”(自分の体を飛ばす)、テレポーテーションは“どこでもドア”、クレヤボヤンスは“スケスケ望遠鏡”といった具合に、いろいろなひみつ道具に類似した効果を得られます。
これは「ドラえもんのひみつ道具を一つだけもらえる」という条件下では大きい!
問題は、間抜けな絵づらの帽子をかぶらなければならないという欠点です。エスパーぼうしのデザインは常時装着するには無理があります。この点においては、なにも身に着ける必要のないE・S・P訓練ボックスの圧勝です。
その代わりにエスパーぼうしには千里眼があるのが痛し痒し。甲乙つけがたいけれど、やはり見た目が間抜けな分だけ若干劣るかな。というわけで、もしもひみつ道具を一つもらえるなら、エスパーぼうしの優先度は星
つです。