のび太が夏休みに出された社会科の宿題は「この町の歴史を調べる」というものでした。ドラえもんの力を借りて“タイムカメラ”で過去の写真を撮っていくと、なんとそこには桃太郎と思わしき一行が写っていたのです。
この謎は解かねばならないと“タイムマシン”で写真の時代を訪れたところ、なんだかんだあって川を下ることになりました。そこでドラえもんが取り出したひみつ道具が“モモボート”です。
おや? それってつまり――。
ドラえもんのモモボートは、桃の形をした絶対に沈まない一人乗りボートです。
サイズはドラえもんの身長129.3cmと同程度。桃の割れ目にあたる部分を左右に開閉して乗り込みます。船内はモニターや操縦桿(そうじゅうかん)などが備わったコックピットになっています。
原作では水流に身を任せた川下りに用いられましたが、操縦桿や計器の存在から、なんらかの動力が搭載されていると推定されます。当サイトではこの推定を前提とします。
ちなみにアニメ第2作第2期(わさドラ)では“フルーツボート”の一つとして登場しました。フルーツボートには桃のほかにスイカやバナナなどのタイプがあります。
モモボートには窓が一つもなく、コックピットの小さなモニターでしか外を見られません。船内が狭いことも相まって、かなり閉塞感があります。これでは水上を走る爽快感が台無しなので、ウォータースポーツには不向きです。
そのぶん実用性が高いかというと、それもいささか怪しい。いくら絶対に沈まなくても、人ひとりがようやく乗れる程度の搭乗スペースしかないのでは、使える場面が限られます。
これしかないという出番が水害の緊急時です。たとえば自宅が津波に襲われて逃げ遅れても、モモボートにさえ乗れれば助かります。そういった水害時の脱出ポッドとしては群を抜いて優秀でしょう。
なにせ「絶対に沈まない」のだからモモボートの安全性は折り紙付きです。
しいて挙げるなら閉所恐怖症の人がモモボートに乗るのは厳しいでしょう。
ボートが桃の形になることで可能となる悪事は考えられません。
日本人なら誰しも『桃太郎』を連想する「水に流れる巨大な桃」というキャッチーな被写体がほっとかれるわけがない。またたくまにSNSで拡散されるばかりか、イキった輩(やから)に拿捕(だほ)されるかもしれません。
モモボートの秘匿性は数あるひみつ道具のなかでも最低レベルです。
舵(かじ)とかスクリューとか、船ならではの機構がなにもないのに、モモボートはいったいどうやって推進しているのか。おそらくはその牧歌的な見た目と裏腹の革新的なテクノロジーが用いられているのでしょう。
とはいえボートはボートです。これが元で世界が変わることはありません。
モモボートは「桃型ボート」以上のものではなく、22世紀の未来を感じさせる要素に欠けます。ひみつ道具にしては「これでしかできない体験」という空想が広がりません。
というわけで、もしもドラえもんのひみつ道具を一つもらえるなら、モモボートの優先度は星
つです。