訳あって延元三年(西暦1338年)の日本で桃太郎を探していたドラえもんたちは、当時の人たちから鬼の仲間だと勘違いされて、深い落とし穴にかけられてしまいました。
そんな危機的状況もひみつ道具があればさしたることもありません。“モグラ手ぶくろ”を使ってサクッと脱出しましたとさ。
「モグラ」をひらがなにする「もぐら手ぶくろ」という表記ゆれが見受けられます。
ドラえもんのモグラ手ぶくろは、着けると手でザクザクと簡単に土を掘れるようになる手袋です。
その掘削力は強力で、のび太でさえ地中深くに通じるトンネルをいとも簡単に掘れました。
地面に穴を掘る効率なら、モグラ手ぶくろは重機にも勝るでしょう。
でも、人が通れるほど大きな穴を掘る必要に迫られる場面は、それこそ重機を用いるような工事現場くらいで、日常生活とは無縁です。
だからといって工事のような公共性の高いことに、ひみつ道具のような得体の知れない工具を使うわけにはいきません。
日常的かつ個人的に穴を掘る理由のある人――それっていったいどんな事情なのでしょう――を除けば、モグラ手ぶくろはもらっても宝の持ち腐れになるだけです。
地質や地層を見極めずにトンネルを掘り進めば、崩落や冠水の憂き目に遭います。
モグラ手ぶくろの掘削力がどれだけ優れていても、身動きが取れなければ掘れません。生き埋めになったらそこで終了です。溺死、圧死、窒息死。素人が軽率にトンネルを掘るのは命知らずです。
刑務所の敷地内までトンネルを掘って脱獄の手引きをする? 建築物の地下を穴だらけにして地盤沈下させる?
なんにせよ身一つで大規模なトンネルを掘るのはリスクが高すぎて、それに見合うだけのリターンを期待できる悪事なんてないでしょう。
「地下に潜る」とは、捜査機関や世間の目を逃れて活動することを意味する慣用句です。それほど地下は目の届かない場所というわけです。
地上に出入りする場所さえ人目を避ければ、モグラ手ぶくろの存在はそうそう明るみには出ません。
重機にも勝る掘削力を手袋一つで実現するのは驚異的です。とはいえその手段がもたらす結果は「地面に穴を掘る」というありふれたものです。
モグラ手ぶくろをどう使っても、社会に変革は起こせないでしょう。
モグラ手ぶくろは、「モグラのように地中を移動したい!」という願望があるなら夢のような、そうでなければ「暗くて狭くてジメジメして怖い」という悪夢のような経験となるひみつ道具です。
ほとんどの人は後者でしょう。ただ、かさばらないので、いつも持ち歩いておけば、なにかのときに役立つかもしれません。
というわけで、もしもドラえもんのひみつ道具を一つもらえるなら、モグラ手ぶくろの優先度は星
つです。