我々の暮らす世界が、ドラえもんの生まれる2112年9月3日までに『ドラえもん』の未来像へ追いつくには、そろそろその兆候が見えてこないと間に合いません。
いまだに“どこでもドア”も“タケコプター”も実現のめどがまったく立っていないけれど、ごく一部のひみつ道具はおおむね実現し始めています。そんな兆候の一つが“インスタント旅行カメラ”です。
ドラえもんのインスタント旅行カメラは、背景と人物を合成して、あたかも旅先で撮影したような見せかけの写真が作れるカメラです。
二方向に付いているレンズの一方に人物が、もう一方に背景の素材となる風景写真が、それぞれファインダーに収まるようにして撮影すると、二つの映像の合成写真が自動作成されます。そしてすぐに写真がプリントされます。
人物の切り抜きをはじめとする画像処理はすべて自動で行われます。
また、三脚を取り付けるためのネジ穴と、セルフタイマーも備わっています。
インスタント旅行カメラの登場する原作エピソード「行かない旅行の記念写真」が描かれた70年代では、合成写真を作るには結構な手間が掛かったことでしょう。それが今ではパソコンやスマホで手軽に写真を加工できるようになりました。
画像の編集作業が全自動なところは今でもまだインスタント旅行カメラが優位に立っています。それでも「背景に人物を合成する」という一点特化なのでは、あらゆる画像編集を可能とするアプリの前では立つ瀬がありません。
デジタルデータではなく、物理的な写真しか出力しないのも時流に不似合いです。
ただしカメラに求められるのは実用性ばかりではありません。トイカメラやクラシックカメラが「不自由さや独特の画質がかえって良い」と一定の需要を保っているように、インスタント旅行カメラもそういったニッチな価値が見いだせます。
インスタント旅行カメラが含み持つ危険性は普通のカメラと同程度、すなわちほぼゼロです。
しいてインスタント旅行カメラの悪用方法を挙げるなら、浮気や不倫のアリバイ工作でしょうか。それにしたって今どきデジタルデータじゃない写真は不自然で、説得力に欠けます。
時代に追いつかれたひみつ道具。その一つがインスタント旅行カメラです。人前で堂々と使っても、それが時間を越えて未来から届けられたカメラだとは、誰も思いもよらないでしょう。
Adobe Photoshopをはじめとする画像編集ソフトは需要が高く、日々進歩している分野です。画像から人物を切り抜く作業などもどんどん簡単になってきました。今やスマホアプリですら画像を編集できる時代です。
AppleのSiriや、MicrosoftのCortanaなどのパーソナルアシスタントに、「この写真から人物を切り抜いて!」と頼むだけで画像を処理してくれる時代はもうすぐそこまで来ています。
もはやインスタント旅行カメラは時代遅れだといっても過言ではないでしょう。
インスタント旅行カメラは総じて趣味性の高いひみつ道具です。現実離れしていない、割とまっとうな機能ではあるけれど、趣味に合わないと「だからなに?」という感じでしょう。
どうせなら多少のリスクを取ってでも、もっと刺激的なのが欲しい。というわけで、もしもドラえもんのひみつ道具を一つもらえるなら、インスタント旅行カメラの優先度は星
つです。