ジャイアンとスネ夫に馬鹿にされたのび太がドラえもんに泣きつくのは毎度のこと。だから呆れ気味に対応することも多いドラえもんが、珍しく「カッ💢」と頭に血を上らせたときに取り出したひみつ道具が“のろいのカメラ”です。
それでもドラえもんは結局「これを使うのはあまりにざんこくだ」と思いとどまりました。激情に駆られていても使うのをためらわせるのろいのカメラとは、いったいどのようなひみつ道具なのかというと……。
ドラえもんののろいのカメラは、悪魔の発明といわれている恐ろしいカメラです。
これで人を撮影すると、その人そっくりの人形が本体からこぼれ落ちるように出てきます。その人形にしたことは、そっくりそのまま本人に伝わります。人形をバラバラにしたならば、本人もまたバラバラになってしまうのです。
なお、撮影するときに撮影者は雷に打たれたかのような感覚に襲われるものの、実害はありません。
この手の身勝手なひみつ道具は、“どくさいスイッチ”のように「悪意ある使用者を懲らしめる」ことが本当の用途だったりします。
しかしのろいのカメラは、正真正銘の悪意に満ちた、とんでもない代物です。
のろいのカメラを使えば、常人では耐えられないほどの苦痛を与え、挙句の果てには肉体を破壊することすら視野に入ります。
確かに恨みは晴らせるかもしれないけれど、人に呪いをかける非道を「有用」だなんていえません。
呪いに関することわざに「人を呪わば穴二つ」があります。穴とは墓穴のこと。人を呪い殺そうとすれば、自分の墓穴も必要になる。つまり呪いは自分の身も亡ぼすことになるという戒めです。
この世は「正直者が馬鹿を見る」ことも多い残酷なものだけど、呪い殺すとなるとそれ相応の報いは受けるかもしれません。
のろいのカメラは人を痛めつけるためのひみつ道具なので、どう使ったって――たとえ相手が悪人だろうとも――悪用です。
のろいのカメラで作った人形を捨てるだけで、ゴミ収集車によって押しつぶされ、焼却施設で灰になるまで燃やされます。死に至らしめても、犯行が立証されることは絶対にありません。なんという非道なひみつ道具なのでしょうか。
カメラで人を撮影するのは、なにげにハードルが高いです。それが一眼レフ(の見た目をしているのろいのカメラ)となればなおさらのこと。おまけに撮影した瞬間、被写体に生き写しの人形が出てくる超常現象まで起こる始末です。
相手に不信感を与えずに、人形をこっそり作るのはかなり難しいでしょう。
でものろいのカメラを使うことを決心させるほどの事態なら、なりふり構わず撮影してしまえばいいのかもしれません。そののち相手の身に起こることと撮影したこととの因果関係は誰にも証明しようがないのだから。
ひとたび人形さえ作ってしまえばこっちのもの。本人と人形がどれだけ離れていても関係ないので、誰にも見られない自宅で目的を達成できます。
正義の名の下に行われる戦争がなくならない限り、殺人を目的とした兵器もまたなくなりません。「正義」が名目だから、それらの兵器は瞬発的な殺傷能力が高くなるように、つまり「楽に死なせる」ように設計されています。
歪んだ大義名分がまかりとおっているこの世界でも、人を徹底的に痛めつけ、なぶり殺しにするのろいのカメラは、いかなる名目を掲げようとも容認されはしません。条約で禁止されている対人地雷と同様です。
世界の指導者の人形を「人質」に取って傀儡(かいらい)にして裏から世界を動かす。なんていう漫画じみた使いかたも考えられるけど、脅迫の通信を全力で追跡されて逮捕されるのがオチです。
日本に古来から伝わる呪いとして「丑の刻参り」があります。丑の刻(午前1時から午前3時)に藁人形を木に釘(くぎ)で打ちつけるという儀式です。そのさまは、正気の沙汰ではありません。
呪いを実行したとき、すでに自分の片足が墓穴に入っているのです。
というわけで、もしもドラえもんのひみつ道具を一つもらえるなら、のろいのカメラの優先度は星
つです。