夏休みを使ってハワイ旅行へ行ったことをスネ夫にしつこく自慢されて、見栄っ張りなのび太は思わず自分は世界一周したと嘘をついてしまいました。
その嘘をなんとか取り繕わないと困る、とのび太がドラえもんに泣きついて出してもらったひみつ道具が“電車ごっこ”です。
「電車ごっこ」という道具名は原作エピソード「行かない旅行の記念写真」(てんとう虫コミックス第7巻)より。アニメ版では「どこでもきっぷ」と呼称されることもあります。
『ドラえもん最新ひみつ道具大事典』では「電車ごっこ」を基本として、補足的に「どこでもきっぷ」も紹介されています。
ドラえもんの電車ごっこは、鉄道駅の行先板を模したひみつ道具です。行き先をこのボードに書き入れて扉に張り付けると、扉を開いた向こうが行き先へつながります。
行き先は柔軟に解釈されるので、曖昧に書いても機能します。逆にいえば、厳密に書かなければ想定どおりの場所へはそうそうつながりません。
扉への付け外しも、書き入れた行き先を消すのも簡単にできるので、繰り返し何度でも使えます。
電車ごっこが有する「瞬間移動」という機能の有用性には疑う余地もないでしょう。環境によっては「人生の浪費」といっても過言ではない通勤通学なぞの無益な移動を丸ごとショートカットできるのだから!
だからといってその力に飛びつくのはまだ早い。瞬間移動は悪魔の力にもなることを忘れてはいけません。もしも電車ごっこに「ホワイトハウス」と書いたら? あなたが悪用しなくても、過激な思想を持つほかの誰かが目をつけるかもしれません。
映画『エンド・オブ・ホワイトハウス』特報
さて、瞬間移動できるひみつ道具といえば“どこでもドア”です。けれどもどこでもドアを「ひみつ道具を一つだけもらえる」という条件で手に入れた場合は、“四次元ポケット”がないため移動先でどこでもドアを持ち歩く羽目になります。
ピンクのドアを持ち歩く姿は異様でとにかく目立ちます。すぐに噂(うわさ)が広まるでしょう。そこで電車ごっこです。本体が薄いボードの電車ごっこなら袋などに入れて普通に持ち歩けるから、無暗に人目を集めないで済みます。
瞬間移動の利便性は、よこしまな考えを抱く者に狙われる危険性とトレードオフです。電車ごっこでもまだ秘匿性に問題は残るけど、どこでもドアより随分マシ。リスクを抱える覚悟があるなら、それ相応のリターンは得られるでしょう。
どこでもドアは使用者の思考を読み取って行き先指定の正確度を高めてくれます。そういった機能が電車ごっこには備わっていません。電車ごっこの発動した扉が想定どおりの場所につながっているかは開けてみるまでわかりません。
電車ごっこを使う際は、扉をいきなり全開にぜずに、まずはすこしだけそっと開けて向こうの様子をうかがう慎重さが求められます。
たとえどれだけ厳重なセキュリティだったとしても、それをスルーして直接内部へ侵入されてしまえば用を成しません。瞬間移動は不法侵入を皮切りにさまざまな犯行を容易にします。
そして瞬間移動を用いた犯行は、現代の科学技術では実証できません。よほどのヘマをしない限り、不可能犯罪として迷宮入りするでしょう。
ただし電車ごっこによる瞬間移動は行き先指定が不安定です。どこでもドアよりも悪用度は幾分落ちます。
電車ごっこの発動した扉が開く様子を向こう側から見ると、空間が切り裂かれた形になります。そのインパクトたるや並大抵のものではないはずです。
移動先に人がいるかどうかは事前に確認するのは困難なので、遅かれ早かれ目撃されてしまうでしょう。
瞬間移動の悪用度の高さは札付きです。もしも爆弾を有する悪漢の手に電車ごっこが渡ったら? 人で混み合う場所に電車ごっこから爆弾を放り込まれたら、それを防ぐ手立てはありません。
電車ごっこがあれば一人でもおびただしい死傷者を出せるのだから、組織的に破壊活動を実行されたなら、それは未曽有の戦争だといっても過言ではないでしょう。
ひみつ道具から得られるさまざまな恩恵の中でも瞬間移動は群を抜いて有用です。実用性も娯楽性も文句なし。なにをするにも移動は欠かせないから、活躍する場面は多岐にわたります。
問題はその悪用性の高さ。瞬間移動できるひみつ道具が悪の手に渡るなんてことは決してあってはなりません。その点、どこでもドアより秘匿性で勝る電車ごっこは隠れた逸品です。
それでもまだもらい受けるには不安が残ります。というわけで、もしもドラえもんのひみつ道具を一つもらえるなら、電車ごっこの優先度は星
つです。