ジャイアンが貸してくれた本の『けんか読本』を汚してしまったのび太は、そのことをジャイアンにどう打ち明けたらいいのか思い悩んでしました。
ジャイアンを怒らせたらただでは済みません。そこでドラえもんがのび太のために取り出したひみつ道具が“反のうテストロボット”です。
ドラえもんの反のうテストロボットは、特定の人が会話にどう反応するかをテストできる人型ロボットです。頭部のパネルに対象者の顔を描いてから話しかけると、その本人とまったく同じに反応します。
原作エピソード「テスト・ロボット」(第7巻収録)では、ドラえもんがササッと描いたジャイアンの顔をこともなげに認識しました。使用者の思考を読み取って対象を補完する“どこでもドア”のような機能が備わっているようです。
相手に知られることなく、その人との会話を事前に試行できれば、対人にかかわる事柄すべてで有利に立ち回れます。
裏返せば、相手は気づかぬうちに不利な条件を強いられているわけです。頭の中をのぞかれたも同然。その事実を知ったなら許せはしないでしょう。
たとえ計り知れないほどの利が反のうテストロボットから得られるとしても、モラルを著しく逸しているからには、有用とはいえません。
会話の受け答えだけではなく、身振り手振りや声のトーンまで本人そっくりに反応する反のうテストロボットをもってしても、生身の人間が放つ空気にはいまひとつ至らないはずです。
そのせいで、人が無意識に感じ取っている心の機微と誤差が生じて、真意を図り損ねることもあるでしょう。反のうテストロボットをあまり妄信すると、「策士策に溺れる」を地で行くことになるかもしれません。
自分の所有する反のうテストロボットにどれだけ非道な扱いをしても、現行法では裁かれません。拷問や賄賂など、本来なら非合法な手段を用いて、相手から情報を引き出せます。
これはもちろん脱法行為であって、明らかにモラルに反する悪行です。
反のうテストロボットは人前で使う必然性のないひみつ道具です。プライバシーがきっちり確保された場所で使用すれば、秘匿性には差し支えません。
二足歩行ロボットは急激な進歩を遂げています。二足歩行をはじめとする人の動きを再現する技術は反のうテストロボットに肉薄する勢いです。
Atlas, The Next Generation
しかしながら人格の再現となると夢物語です。現存する技術の延長線上にはない、まるで新しい原理が用いられているはずです。
人間関係の在り方がひっくり返るほどの悪影響が予想される技術なだけに、反のうテストロボットの存在は公表するべきではないでしょう。
人が抱えている悩みの大半は、人間関係に起因しているといっても過言ではありません。反のうテストロボットは、そういった問題を解決する糸口になり得ます。
フェアではないけれど、Win-Winになるケースも考えられるため、一概に悪いと切り捨てられません。というわけで、もしもドラえもんのひみつ道具を一つもらえるなら、反のうテストロボットの優先度は星
つです。