のび太のお父さんがなにやらドタバタと大慌てしています。大事な仕事に行く予定だったのに、出遅れてしまったのです。こんなときはもちろんひみつ道具の出番です。そこでドラえもんはさっそうと“どこでも大ほう”を取り出しました。
「どこでも大ほう」という道具名はエピソードタイトルより。原作漫画の作中では「大ほう」としか呼ばれません。
ドラえもんのどこでも大ほうは、どこでも狙った場所へ人や物品を飛ばして送れる大砲形ひみつ道具です。届けたい場所を付属のモニターに映して、本体後部のひもを引っ張ると、砲身にセットしたものがそこへ一直線に飛んでいきます。
射程距離内であれば、どこでも自由にモニターに映しだせます。射程距離に関して作中では「外国へは届かない」とだけ言及されています。
のび太たちが暮らす街は東京都練馬区です(1)。練馬区からだとユーラシア大陸までの距離は900km以上あります。けれども外国に特別近い地点、たとえば対馬から韓国の釜山までなら50km弱しか離れてません。
そこで当サイトでは、どこでも大ほうの射程距離を韓国へぎりぎり届くか届かないかの約50kmとします。
普通ならば、発射の勢いだけで50kmも飛ばす威力に人間の体は耐えられません。にもかかわらず飛んだ人がみんなへっちゃらだったことから、衝撃は未知の力で打ち消されていることがうかがい知れます。
また、のび太のお父さんを打ち出したとき、走行中の新幹線に後方から追いつきました。原作エピソードが描かれた1970年代当時の新幹線の最高速度は時速210kmなので、どこでも大ほうの弾速はそれよりも速いことになります。
(1)てんとう虫コミックス『ドラえもん』第15巻に収録された「不幸の手紙同好会」の作中で、スネ夫家の住所が「東京都練馬区月見台すすきヶ原3-10-5」だと明記されています。「月見台」以降は架空の住所です。
Amazonがドローンで商品を配達する「Prime Air」は実現に向けてちゃくちゃくと進められています。
Amazon Prime Air
「荷物を飛ばして届ける」という考えも、あながち荒唐無稽とバカにはできない時代になりました。とはいえ、どこでも大ほうの「障害物はよけずに突き破る」という豪快な仕様ではさすがに実用性を認められません。
素直に定番の“どこでもドア”なり“タケコプター”なりを使うべきでしょう。
どこでも大ほうの真の価値はモニターにあります。なにせ射程距離内ならどこでも見られるのですから! しかしこれにしたって“タイムテレビ”にはかないません。それに公共の場以外を映せば盗撮なので、有用とするにはグレーな機能です。
結局、サーカスの人間大砲のようにショーにするのが唯一まともな使い道でしょう。
どこでも大ほうで飛ばした人や物は未知の力で衝撃から守られているため安全です。危険なのは目的地までのルート上にあるものです。それらは衝撃から守るどころか、突き破ってしまいます。都心部で使えば破壊は避けられないでしょう。
モニターでどこでも好き勝手に盗撮できます。鉄球や爆発物を飛ばせば文字どおりの大砲として機能します。どこでも大ほうはなかなか物騒なひみつ道具です。
空を飛んでいる人や物品が視野に入ったら、大抵の人は反射的にそれを見るはずです。かなりの速度なのでぼんやりとしか視認できず、「夢かうつつかまぼろしか」とにわかには信じがたい心境にはなるでしょう。
それでも目撃者が増えていけば、いずれ確信に変わります。大砲本体も大人が砲身に入れるほど大きくて隠しにくいことも相まって、どこでも大ほうに秘匿性は期待できません。
モニターに関しては、こちらが見ていることは相手側にいっさい伝わりません。モニターだけを運用する分には秘匿性は守られます。
先に紹介したAmazonのPrime Airが十分に進化したならば物流革命が起こるでしょう。どこでも大ほうもいい線をいっているものの、やはり障害物の問題がいかんともしがたく、革命的とまではいえません。
なんともひみつ道具らしいふざけた魅力があるどこでも大ほうは、見る分には楽しいけれど、じゃあ自分で使うかとなると別に要りません。モニターの汎用性にしたってタイムテレビのほうがはるかに高い。
というわけで、もしもドラえもんのひみつ道具を一つもらえるとしたら、どこでも大ほうの優先度は星
つです。