「なにを言うか」ではなく、「誰が言うか」が聞き手の反応を決めてしまうときがあります。あまり好ましいことではないけれど、当然といえば当然です。ならばそれを逆手にとってしまえ! というひみつ道具が“ダイリガム”です。
ドラえもんのダイリガムは、人に直接言いにくいことを代わりに伝えてくれる代理人を立てるひみつ道具です。
例えばジャイアンへ言いたいけど言えないことを口に出しながらこのガムを噛(か)んで、その噛みカスをスネ夫にくっつけます。するとスネ夫は自分でもわけがわからないままジャイアンのもとへ赴いて、先の文言どおりに話して伝えてしまうのです。
メッセージを伝えたい相手が誰なのかは、ダイリガムが意思から読み取ってくれるので、特に指定する必要はありません。
ダイリガムの噛みカスは、効果が発動するとすぐに消え去ります。
ドラえもんからもらえる量は1個。ダイリガムに似ているロッテの定番板ガムが9枚入りなことから、ダイリガムも同じく9枚入りとします。
たとえ同じ言葉だとしても「誰が言うか」で受け取られ方が変わってしまう世知辛い世の中。自分の言いたいことをほかの人から伝えさせるのは姑息(こそく)ではあるけれど、そうするのも仕方ない場面もあります。
だからといって、ダイリガムを使って代弁を強制することは正当化されません。他人を盾にとって自分は知らん顔するのが有用だとはいえないでしょう。ダイリガムなど使わずに代弁をちゃんと頼むのが筋道です。
ようするにダイリガムは自分で直接言うと不利益を被るようなことを人に言わせるためのひみつ道具です。発言をなすりつけられた人の安全性は担保されませんが、自分のリスクは軽減できます。
ダイリガムの噛みカスが自分の手を一度離れてから再び自分にくっついた場合は、自分が効果対象になってしまいます。ひとたび効果が発動すればもう止められません。墓穴を掘らぬように噛みカスの取り扱いは要注意です。
学校や職場における地位がたった一つの失言で覆ってしまうこともあります。スクールカーストの序列にそぐわない発言をさせたり、取引先で失礼な発言をさせたり、ダイリガムを用いれば造作もなく人を陥れられるでしょう。
また、日本の司法は「自白至上主義」などと揶揄(やゆ)されるほど自白に偏重しています。真犯人しか知りえない事項の自白、いわゆる「秘密の暴露」を捜査機関相手にさせれば、自分の犯した罪を他人になすりつけられるかもしれません。
「ガムの噛みカスをくっつける」という発動条件に少々難があるものの、噛みカスは効果が発動すればすぐに消え去ります。ともかくくっつけてしまえばもう証拠は残りません。
失言のせいで政治家が辞任に追い込まれることがあります。ダイリガムを用いれば、気に食わない政治家を厄介払いできるでしょう。けれどもたったの9枚では、社会に変化を起こすにはまるで足りません。
「口は災いの元」だとわかっていながら、自分は安全なとこから高みの見物しようというのだから、ダイリガムはかなりたちの悪いひみつ道具です。問題解決が目的ならなおさら、なにもこんなひきょうな手段を選ばなくたっていいでしょう。
というわけで、もしもドラえもんのひみつ道具を一つもらえるなら、ダイリガムの優先度は星
つです。