のび太が部屋でボールの壁当てをしながら、どれだけ練習しても投球がうまくならないと嘆いています。
いつもならまずは自力で克服させようとするドラえもんだけども、その様子を見て努力を認めたのか、珍しく自分からチートっぽいひみつ道具を差し出しました。それが“エースキャップ”です。
ドラえもんのエースキャップは、かぶるだけで誰でも名投手になれる野球帽です。これをかぶって物を投げると、狙った的に必ず当たります。まるで見当違いの方向へ投げたとしても必ずです。
エースキャップの効力は運動の法則を無視して投げた物を動かすので、障害物があれば迂回(うかい)もするし、初速が足りなくても的まで届きます。着用者の能力はいっさい関係ありません。
ボールに限らず、どんな物を投げても効果を発揮します。的が見えてなくても、頭でイメージするだけでそこへ向けて飛んでいきます。その結果、自分自身を東京から北海道まで投げ飛ばすことすら可能です。
マークがなぜ「P」なのかは不明。続く第7巻の「ジャイアンズをぶっとばせ」にはマークが「A」のエースキャップが登場しました。マークによって性質が若干違うようです。本稿は第6巻に登場したタイプPについて記述します。
エースキャップによるコントロールは「物を投げる」という次元を超えた、さながら超能力の念力です。
野球をはじめとするスポーツに使うのはドーピングのようなもの。プロなら不正だし、趣味ならなおさら自力でやらなければ意味がありません。
エースキャップが有効なのは、むしろスポーツ以外に使うことでしょう。
目的地まで自分自身を投げて一っ飛び。出先で荷物が増えたら自宅まで投げ送る。悪漢に襲われたら警察署へ投げ飛ばし。通勤通学買物護身、なんやかと大活躍します。
でもそれはひみつ道具をどのように使ったって誰も気にしない『ドラえもん』の世界における話です。我々の暮らすこの世界では、人が空を飛んでいたら大きな騒ぎになってしまいます。
かなりの可能性を秘めたエースキャップだけれども、効力を存分に発揮できる場面はほとんどないでしょう。
道路に転がり出たボールが原因で事故が起こることがあります。エースキャップを使う以前の問題として、外で物を投げるときは注意が必要です。
エースキャップ特有のケースしては、人を遠くまで投げ飛ばした場合の安全性は保障されません。
エースキャップを用いて投げた物にかかる飛ぶ力は的に当たった瞬間に消滅します。
高層ビルの壁面など、高所を的にして人を投げ飛ばせば、的に当たった次の瞬間から墜落します。助かる見込みはありません。
超長距離や、異常なコースを投げれば、はた目にも超常現象が起こっているのは明らかです。野球で普通に使っても、もともとのピッチング能力が低いと不自然な変化球になってしまうでしょう。
あまり人前で使えるひみつ道具とはいえません。
エースキャップは、なにげに尋常でないオーバーテクノロジーです。とはいえこれ一つあったところで革命的な出来事につなげるのは難しいでしょう。
エースキャップを活用すれば、子供社会でならヒーローになれるかもしれません。大人はというと、エースキャップが活躍する機会はまれでしょう。
念力として活用するなら用途が広がるけれど、それなら“エスパー訓練ボックス”で完璧な念力を会得したほうがいい。
というわけで、もしもドラえもんのひみつ道具を一つもらえるなら、エースキャップの優先度は星
つです。