イエデンで長電話していたのび太は、電話を使いたいお父さんに叱られてしまいました。ケータイが普及している今ではあまり聞かない話だけれど、原作漫画の描かれた当時は「あるある話」だったのでしょう。
それはともかく、そんなのび太のためにドラえもんが出してあげたひみつ道具が“おしかけ電話”です。
ひみつ道具のおしかけ電話は、相手の所へ飛び出して話ができる糸電話です。
この糸電話の受話器に向かって「もしもし」と言うと体がスポっと吸い込まれて、もう一方の受話器からニュウっと出てきます。
受話器をつなぐ糸は無尽蔵に伸ばせます。また、糸がたるんでいても機能します。
移動系ひみつ道具といえば“どこでもドア”が最強だけれど、自由度の高さゆえに悪用のリスクも高すぎて、ドラえもんからもらうのも考え物です。その点で、受話器の場所へしか行き来できないおしかけ電話の不自由さは、かえって長所でもあります。
問題はおしかけ電話が有線式なこと。勤務先や通学先まで延々と引いた糸が誰からもほっとかれるとは考えられません。現実的なのはせいぜい隣家まででしょう。それも隣家や隣室にお忍びで行き来したい特別な事情でもなければ無意味です。
無線式ならともかく有線式である以上、ほとんどの人にとって宝の持ち腐れとなるしかないひみつ道具です。
おしかけ電話は多少離れている人の声にも反応して、強制的に吸い込みます。通話で「もしもし」と言うときは、おしかけ電話と十分な距離を取らねばなりません。
また、移動先の状況は到着するまでわかりません。向こうが火事などの危険な状況になっている可能性がなきにしもあらず、それなりの心構えが必要です。
もしも、おしかけ電話の受話器の片方が断崖絶壁からつり下がっていたら……。後は標的と二人きりのときに「もしもし」と言わせるだけです。受話器間を遠く離せば不可能犯罪となります。
しかし、おしかけ電話を設置するにも回収するにも滑落現場に足を運こばなければならないので、結構なリスクを伴います。犯罪との親和性は、あえて悪用するほど高くはないでしょう。
秘匿の観点からすると有線式なのが致命的な欠陥です。更におしかけ電話の見た目は糸電話ですから、遊び心で「もしもし」と話しかけてみる人も少なくないはず。
糸を長く引くと人目につきやすいばかりか、たどられると本体も見つけられてしまいます。しまいには起動される恐れまであるわけです。おしかけ電話に秘匿性はまったく期待できません。
瞬間移動を実現するひみつ道具は、交通や流通を基盤とする社会の在り方を革新する力を持っています。とはいえそれは量産されたらの話。どこでもドアならともかく、おしかけ電話が一つあったところで社会はさほど変わらないでしょう。
現実的に考えれば考えるほど有線式なのがネックとなります。おかげで瞬間移動という魅力な機能の割には夢が広がらないというわけで、おしかけ電話の優先度は星
つです。