のび太を誘わずにサイクリングに出かけたしずかちゃんとジャイアンとスネ夫たち。意地悪で仲間はずれにしたのではなくて、「のび太は自転車に乗れないから」というもっともな理由で誘わなかったのです。
それでものび太は一緒に行きたくて自転車に挑戦したけれど、やっぱり乗れません。その様子を見ていたドラえもんが、のび太に貸してあげたひみつ道具が“四次元三輪車”です。もちろん、ただの三輪車じゃありません。
「四次元三輪車」という名称は『ドラえもん最新ひみつ道具大事典』より。このひみつ道具が登場するエピソード「四次元サイクリング」の作中では、「三輪車」としか呼ばれず、その道具名は明らかにされません。
ドラえもんの四次元三輪車は、四次元空間を高速で走行できる三輪車です。
四次元三輪車における四次元空間は、この世界と重なり合っています。四次元空間に入ると元の世界からは見えなくなり、またあらゆるものを突き抜けられます。
それにもかかわらず、四次元空間からは元の世界が見えたり、元と変わらず地面の上を走行したり、呼吸ができたりと、漫画的で実に都合のいい空間です。
四次元空間への出入りは乗車中にボタン操作で行います。四次元三輪車から降りただけでは元の世界へは戻らないので、四次元空間で自由に行動できます。
変速レバーを1速上げるとペダル一こぎで100メートル進むようになり、更にトップに入れたときの速度はドラえもんによると「これはもう、ジェット機なみのはやさだぜ」(1)とのこと。ちなみに旅客機の巡航速度はおよそ時速860kmです。
これらの主な機能のほかに、下記のオプションが装備されています。
四次元三輪車の大きさは幼児用三輪車を二倍にしたくらい。小学生ののび太が乗って丁度いいサイズです。後部は物入れになっていて、作中ではそこにドラえもんが立って入って二人乗りしていました。
(1)てんとう虫コミックス『ドラえもん』第5巻「四次元サイクリング」より。
信号や渋滞はおろか、あらゆる障害物を無視して猛スピードで突き進められる四次元三輪車は移動手段として優秀です。しかし大人が乗るには窮屈で、長時間の乗車はきついかもしれません。
幼児用三輪車にしか見えない乗り物で街中を走る恥ずかしさや、無駄に注目を集めてしまう欠点は四次元空間に入って姿を消すことでカバーできます。
問題は目的地に着いてから。姿を現す瞬間を人に見られない場所と、駐輪しておいてもいたずらされない場所を探さなくてはいけません。四次元三輪車は機能をロックできないので、駐輪して目を離すのはリスクを伴います。
ひみつ道具の存在を人に知られてしまうと大変なことになりますから、四次元三輪車を慎重に運用するとなると、足として使えるケースは限られます。
無暗に四次元空間から出ずともできる、サイクリングやスピード感そのものを楽しむ使い方なら問題なし。衆人環視から解放された贅沢な時間が過ごせます。
四次元三輪車は物体を突き抜ける特性があるため、事故を起こす危険性は皆無です。
怖いのは四次元空間にいるあいだに四次元三輪車が故障してしまうこと。元の世界へ戻れなくなってしまいます。この世とあの世の狭間のような世界に取り残された人は、さながら幽霊のようです。
四次元空間に入れば、決して人に見られることなく、どこへでも侵入できます。人の私生活から企業の秘密まで、あらゆるものをのぞき見して回れます。
悪用向きの“かくれマント”と“通りぬけフープ”の特性を併せ持った四次元三輪車は、犯罪行為にうってつけのひみつ道具です。しかし姿を現さないと対象に直接手出しできないことが悪用性をかろうじて押しとどめています。
ちなみに、地面以外のあらゆるものを突き抜けられる四次元三輪車ですが、なにをもって「地面」と判断しているのかは不明です。もしかしたら四次元空間にいるあいだは建物の二階以上には上がれないかもしれません。
やましいところがなければ元の世界に戻って上がればいいだけの話ですが、悪用する上では大きな欠点です。
たださえ三輪車は注目を集めやすいのに、通常では有り得ない猛スピードが出たり、思わず押したくなるようなボタンがいっぱいついていたりと、四次元三輪車はなにかと目立つ存在です。
しかし四次元空間に入ってしまえば元の世界からは一切感知されません。四次元空間に出入りする瞬間さえ見られなければ、秘匿性を守れます。
我々のいる空間と重なり合うもう一つの空間。あながち荒唐無稽だと完全否定できないように思えるくらい、量子の世界は摩訶不思議です。なんにせよ、そういった空間へ自由にアクセスできることが革命的なのは間違いありません。
また、各国が躍起(やっき)となってステルス機を開発しているほど、ステルス性は戦略的な価値の高い技術です。究極のステルス性を有する四次元三輪車は、使い方しだいでは国家安全保障を揺るがすでしょう。
ジェット機並みのスピードで縦横無尽に走行するのはきっと楽しいはず。四次元空間に入って姿を隠すことで発揮する、モラル的にグレーなズルさもあるでしょう。
というわけで、もしもドラえもんのひみつ道具を一つもらえるなら、四次元三輪車の優先度は星
つです。