アニメ『ドラえもん』で放送されたエピソード「四次元くずかご」でドラえもんが発したこんな言葉にネットがざわつきました。
ボクの出す道具は一回限りの使い捨てが多いんだ。そのほうが値段も安くすむからね。
アニメ『ドラえもん』2017年5月12日放送「四次元くずかご」より
使い捨て? 安く済む? さて、いったいどういうことなのでしょうか。
まずはこのセリフの出典を明らかにしないと話が始まりません。衝撃の事実に驚いた視聴者から「アニメ版の独自設定?」と疑う声さえ上がっていたけれど、これは紛れもなく原作にもあるドラえもんのセリフです。
ぼくのだす道具は一回限りの使い捨てが多いんだ。安いからね。
てんとう虫コミックス『ドラえもん』第45巻「四次元くずかご」より
後半の言い回しこそ違うものの、意味合いは一緒。アニメ版の独自設定などではないわけです。それなのに『ドラえもん』ファンを自任する人たちにも意外と知られていなかったようです。
読み切りが基本の漫画『ドラえもん』は何巻から単行本を読んでも楽しめます。でも第1巻から順番に読みたくなるのが人情です。そのため、この話が収録された第45巻までたどり着かず未読に終わった人が多かったのかもしれません。
漫画『ドラえもん』は科学的な考証に基づいたサイエンス・フィクション(Science Fiction)ではなくて、すこしふしぎ(Sukoshi Fushigi)なSFです。
それだけに重箱の隅をつつけばいくらでも矛盾が出てきます。そもそもギャグ漫画として始まっただけあって「細かいことは言いっこなし」なんです。
それでも読者からの「なんであのひみつ道具を使わないの?」とか「あんなにいっぱいのひみつ道具を持ってるなんてドラえもんはお金持ちなの?」といった典型的な疑問に藤子・F・不二雄先生は答えました。
それがくだんのセリフであり、公式ガイドブックの『ドラえもん最新ひみつ道具大事典』に寄せたメッセージです。
ドラえもんのひみつ道具には“レンタル”と“セル”の二種類があります。~中略~あまり高価な道具は買えないので、安い使用料で貸してもらいます。ドラえもんは三分の二くらいを、このレンタルで間に合わせているのです。
~中略~よっぽどドラえもんは金持ちなのかと思うのですが、そうでもないのです。
~中略~メーカーが新製品を発売するときは、試供品をただでくれたりして、ドラえもんも助かっているようです。
ビッグ・コロタン『ドラえもん最新ひみつ道具大事典』「はじめに」より
そう、ひみつ道具の大半はレンタルだったのです! 残りは試供品や安価な使い捨て品。なぜならドラえもんは金持ちじゃないからです。
そんなわけで「○○を使えばいいのに!」という場面でほかのひみつ道具を使うし、お小遣いのすくないドラえもんでもいろんなひみつ道具を持ってるんです。
え⁉ お小遣い?
ドラえもんのお金の出どころはというと、現代の野比家からもらっているお小遣いやお年玉です。
第8巻の「見たままスコープ」でお年玉を、第9巻の「無人島の作り方」でお小遣いを、もらっている様子がそれぞれ描かれています。こちらは「四次元くずかご」と違って若い巻数の収録作品なのでご存知の方も多いでしょう。
このすくないお小遣いの中でドラえもんはなんとかやりくりしているのです。
「でもひみつ道具を使えばじゃんじゃんお金を増やせるでしょ!」という疑問には、次の答えが用意されています。
あくまで個人的に使うための道具なんだ。金もうけなどもってのほか。
金もうけしたら、ばく大な罰金をとられるんだぞ。
てんとう虫コミックス『ドラえもん』第37巻「なんでもひきうけ会社」より
とはいっても第3巻の「ボーナス1024倍」では“タイムマシン”を使って、第30巻の「フエール銀行」では“フエール銀行”を使って、ドラえもんは預金を増やしました。
だからやっぱり「細かいことは言いっこなし」です。
ドラえもんは限られたお小遣いでやりくりするために、ひみつ道具の大半をレンタルや安価な使い捨て品、ときには試供品で済ませている。そしてひみつ道具を金もうけに使うと罰せられる。
これが藤子・F・不二雄先生の見解です。
それでも残る疑問の数々は読者一人ひとりの想像で補うのが藤子・F・不二雄先生の望むところではないでしょうか。
この記事の「ゆっくり解説」版
さて、これらの設定を考慮に入れるか入れないかで、「もしもひみつ道具を一つだけもらえるなら、どれが欲しい?」の選択肢はだいぶ変わります。
メディアで定期的に特集されている「欲しいひみつ道具ランキング」のアンケートに答えた人たちは、おそらく「使い捨て」設定を考慮していない、もしくは知らないでしょう。
かくいう当サイト『もしも道具』でも、この設定は考慮から外しています。理由は長期運用を視野に入れたほうが妄想がはかどるから。短期決戦だと即物的な妄想にならざるを得ません。
でもディープな『ドラえもん』ファンならば、これらの設定に加えて、「タイムパトロールをどう出し抜くか(だってひみつ道具を我々が所有することを彼らが許すはずがありません)」まで考えるのもまた一興です。