お年玉を無駄遣いしてしまったのび太が後悔のあまり泣き崩れています。そんな珍しく反省しているのび太の様子を見たドラえもんは「よしよし、それなら」と、ひみつ道具の「フエール銀行」を取り出しました。
ドラえもんの「フエール銀行」は、1時間ごとに利子がつく銀行の携帯型ATMです。1時間あたりの金利は、普通預金なら10%、1か月定期預金なら20%、1年定期預金なら50%、融資だと20%です。
誰でもすぐに口座を開設できます。未来のテクノロジーで個人を特定しているらしく、身分を証明書するものは必要ありません。各種の手続きも顔パスで行えます。
ほかにも「定期預金の中途解約はできない」や「融資の利子を支払わないと所有物をすぐさま差し押さえられる」といった特徴があります。特に差し押さえについては瞬間移動で「パッ」と押収されるので、逃れるすべはありません。
万全のセキュリティ対策が施されており、不正にお金を取り出そうとすると、強力な電気ショックで撃退されます。
要するに「フエール銀行」は、簡単に、確実に、お金を増やせるひみつ道具です。でもちょっと待って! 「労せずして大金を得られる」なんてうまい話には、たいてい裏があります。
のび太の玄孫のセワシが「タイムマシン」でドラえもんを過去へ送り込んだのは、のび太から始まる野比家代々の貧困を改善するためでした。
「フエール銀行」でいくらでもお金を増やせるなら、どうしてセワシはわざわざのび太の人生を変えようとしたのか。
さらに言えば、ドラえもんのひみつ道具は安物かレンタル品です。野比家からもらっているお小遣いくらいしかお金がないからです[1]。
つまりセワシもドラえもんも「フエール銀行」でお金を増やしていません。どうもおかしい……。「フエール銀行」からのび太が5千円借り入れた実績があるので、お金のやりとりができるのは確かなものの、疑問の余地があります。
ドラえもんに真相を聞いて確かめたい――けど無理なため、ひとまず「好きなだけお金を増やせるひみつ道具」として扱います。
「フエール銀行」にお金を預け入れたら、はたしてどれだけ増えーるのか……。雪だるま式に増えて、すぐに空恐ろしい額になります。ドラえもんの計算によると、普通預金でさえ10円が一週間で9千万円くらいになるんだとか。ヤバっ!
やっぱさ、なんだかんだ言って
お金は欲しいよね
でも、ほんとに大切なものはお金じゃ買えないよ
よく聞く「本当に大切なものはお金で買えない」。それは確かにそうなのでしょう。けれど日々の生活に必要な日用品やサービスは「お金で買えるもの」だから、お金が暮らしの充実度を左右するのもまた確かです。
「衣食足りて礼節を知る」とも言います。潤沢な資産があれば、物質的だけではなく精神的にも余裕が生まれます。
あとは「不労所得」をどう考えるか。「お金は汗水垂らして稼ぐもの」という人生哲学をもっているなら、「フエール銀行」は微妙な存在です。そうでなければ、経済的な縛りから解放してくれる素晴らしいひみつ道具となるでしょう。
「フエール銀行」の預金は天文学的数字に膨れ上がります。日本に流通しているお金の総額を超えるのは時間の問題です。どう考えたって市場が壊滅する!
そのお金を使いすぎなければ大丈夫? いや、「フエール銀行」が文字どおり銀行なら、利子所得は課税対象で源泉徴収されています。こちらがなにもしなくても、銀行側が納税しているわけです。お金の流れは止められません。
そもそも「フエール銀行」のお金の流れはどうなっているのか。ひみつ道具は22世紀のものだから、時を越えて未来とやりとりしてる?
ひみつ道具が当たり前に存在する未来の世界ならともかく、我々の暮らすこの現代で「フエール銀行」を稼働させた場合の危険性は未知数です。
あまり預金額が増えすぎないように、必要な額に達したらすぐに引き出したほうが身のため、もとい日本経済のためでしょう。
あとは言うまでもなく「フエール銀行」の融資は危険です。闇金も真っ青の高利貸し! たとえ少額でも借りるのは正気の沙汰ではありません。
経済に悪影響を及ぼさないように「フエール銀行」が設計されているなら、悪用方法はありません。
ただし「フエール銀行」のもたらす多額のお金は別の話です。湯水のようにお金をつぎ込めば、グレーなことも白くなるのは周知の事実。
とはいえ大抵の悪事は金銭が目的だから、合法にお金を好きなだけ増やせるのなら、なにもわざわざ悪事に手を染める必要はないというものです。
「最近あの人、妙に羽振りが良いよね」
派手に散財すると噂になります。場合によっては税務調査に入られることもあるでしょう。分不相応な不動産の購入などは控えるべきです。
また音声対話機能も要注意。「フエール銀行」を見た人が「なにこれ?」とでも言ったが最後、懇切丁寧に説明し始めるだろうから、決して人前に出してはいけません。
「フエール銀行」が普通の銀行のように利子所得から源泉徴収していたら、預金を放っておくと国と地方公共団体へ税収がじゃぶじゃぶ入ります。額が額なので政治的影響は計り知れません。
まあ「フエール銀行」が普通じゃないのは明白なので、おそらく源泉徴収はされないのでしょう。なんであれ、大国の国家予算を上回る額のお金を動かせるのだから、ただごとで済まないのは確かです。
とはいえ小市民がお金を――それも出どころ不明の怪しいお金を――持ったところで、どれだけのことを成し遂げられるのでしょう。
人脈も、計画性も、行動力も必要とせず、何人にも妨害されない「ポータブル国会」なら、安直に日本を変えられます。それに比べたら、お金で変革を起こそうとするのは愚直にすら思えます。
ひみつ道具でどんな夢をかなえたい? もしかしてその夢、お金でも実現できたりしませんか?
この現代社会において、お金ほど汎用性の高い“道具”はありません。なにかに特化した一つのひみつ道具より、お金のほうが便利に使えます。そのお金を自由に増やせる「フエール銀行」は、やはり魅力的です。
結局、金かい!
夢がないなあ
なのにお金のほうが夢が広がるんだから皮肉な話だよね
お金絡みの嫌なニュースは多いけど、お金そのものには善も悪もないから「どう使うか」がすべてです。うまく使えば自分も周りもハッピーに。
というわけで、もしもドラえもんのひみつ道具を一つもらえるなら、「フエール銀行」の優先度は星。当サイトの「欲しいひみつ道具ランキング」入りです。
つ(本当に「フエール銀行」が好き勝手にお金を増やせるひみつ道具だとしたらですが……)