野比家の近所で野良の黒猫と白猫がケンカしています。その黒猫にいじめられている白猫の姿をなんども見ていたのび太は、白猫を応援しました。
そこでドラえもんがなんとかしようと取り出したひみつ道具が“カチカチカメラ”です。
ドラえもんのカチカチカメラは、勝負の行方を操るビデオカメラです。これに「○○を勝たせろ」と音声で指示して勝負事を撮影すると、○○が必ず勝利します。
指定する対象は、個でも集団でも構いません。また、勝負を生中継している画面を撮影しても効力を発揮します。
人生は競争の連続です。それがどんな競争だろうとカチカチカメラで自撮りすれば必ず勝てます。連戦連勝、いつでもあなたがナンバーワン。まさしく「勝ち組」です。
その陰には敗者がいます。正々堂々と戦った結果なら仕方がない。それも人生です。でもひみつ道具による不正があったとなれば話が違います。
カチカチカメラがもたらす勝利を「有用」だなんていえません。逆にいえば、先に相手が不正をしているなら正当な出番です。毒をもって毒を制す。こいつで思い知らせてやりましょう。
カチカチカメラに依存して、自分の力で戦うことを忘れてしまうと、いつか中身が空っぽの人間になってしまいます。
「勝てば官軍、負ければ賊軍。手に入れた力をふるってなにが悪い!」
悲しいかな、そんな風に居直る人がのさばる世の中です。敗者には目もくれず、カチカチカメラで勝利をむさぼれば、いつしかそれがあたかも「正義」であるかのように見えるでしょう。
それでも本質が「不正」なことに変わりません。
ビデオカメラが勝者を決める。そんな荒唐無稽なことをいったい誰が気がつくというのでしょう。
「勝負の綾」か「未知の力の介入」か、ひみつ道具が流通している未来の世界ならともかく、我々の暮らす現代では、カチカチカメラの力を感知するすべはまだありません。
もしも我々の軍事力をはるかに上回る宇宙人が攻めてきたら? ハリウッド映画のように「特定の周波数で……」みたいな弱点があるはずもなく、抵抗むなしく蹂躙(じゅうりん)されるでしょう。
でもカチカチカメラに「地球側に勝たせろ」と言って撮影すれば、必ず我々が勝利します。「勝ち」という概念が通用するなら軍事衝突だろうがなんだろうが勝たせられる。この恐ろしさは計り知れません。
あなたがたった一人で全世界に「戦争」を始めても、最後に立っているのはあなたです。
じゃんけん、果ては戦争。自分の勝負、赤の他人の勝負。あなたがカチカチカメラで勝ちたい・勝たせたいのって、なに?
一口に「勝ち」といっても、それが示す状況は数限りなく考えられます。その中には世界を揺るがす「勝ち」だってあるでしょう。
強大な力となり得るだけに、これを選ぶなら使い道をゆめゆめ考えなければなりません。
というわけで、もしもドラえもんのひみつ道具を一つもらえるなら、カチカチカメラの優先度は星
つです。