「雲」とは、ちりなどの微粒子に水滴がまとわりついた「雲粒」の集まりです。雲粒同士がぶつかり合わさって、上昇気流で支えられない重さになると、落下して「雨」になります。
そんな自然の摂理を根本からから覆すひみつ道具が“うき水ガス”です。
ドラえもんのうき水ガスは、雲を浮かせたまま、ひとまとまりの水にするガスです。
ひとまとまりになる前と後とで雲の大きさは変わりません。雲粒同士のあいだが水で満たされる、つまり爆発的に水の量が増えていると推定されます。
水の重さは1立方メートルあたり約1トンです。雲ほどの体積ともなれば、とてつもない重さになるにもかかわらず、水化した雲はふわふわと浮かび続けます。
ドラえもんたちはうき水ガスによって水で満たされた雲をプールにして遊びました。楽しそう!
でも困りました。「ひみつ道具を一つだけもらえる」という条件だから、“タケコプター”は別途もらえません。雲の浮かんでいる空高くまで行くのが大変です。
着水できる水陸両用ヘリコプターをチャーターして行くにしたって、かなりのリスクがあります。だいたいパイロットになんて説明するのか。
うき水ガスを「空の雲」に使うのは諦めたほうがよさそうです。それなら雲は雲でも「卓上の雲」はどうでしょう。ペットボトルの中に雲を作る簡単な実験があります。
この実験でペットボトルの中に線香と一緒にうき水ガスを入れて雲を作ったら、キャップを開けても霧散しない「小さな手乗り水雲」になるかも!?
それでなにができるわけでもないけれど、「なんだか不思議で面白いもの」を見て触れる人生経験の価値は侮れません。
雲のプールの底に床はありません! 溺れて沈んだのび太は底から抜けて落っこちました。ドラえもんが助けてなければ死ぬところです。
「空を漂う巨大な水の塊」という存在自体も危険です。航空機が突っ込みでもしたら、機体に大ダメージを受けて墜落するでしょう。乗員の命は助かりません。
うき水ガスでプールと化した雲は航空機の大敵になります。まさか雲が水で満たされているなんて、どんなパイロットでも予想だにしないでしょう。
狙ってぶつけることはできなくても、手当たり次第にうき水ガスを吹きつけて「水雲」をたくさん作れば、いつかは航空機と衝突します。
タケコプターがないと雲に近づくのも難しいから、実現が難しい悪用方法であることが救いです。
うき水ガスで雲を水の塊にしても、どうやら遠目には普通の雲と見分けがつかないようです。
ただし自家用のヘリコプターを自分で操縦するでもない限り、第三者の介入は避けられません。「人知れず雲のプールで遊ぶ」という夢をかなえるのは困難です。
「雲が水で満たされる」ってその水はどこから来たの? 「それでも浮かび続ける」ってどういう理屈で?
SF作家のアーサー・C・クラークが言うところの「十分に発達した科学技術は、魔法と見分けがつかない」を地で行く謎テクノロジーです。
うき水ガスを「我々現代人が信じている物理原則が通用しない」という観点からいえば、そりゃもう革命的。でも「1本のうき水ガスで社会を変えられるか」といえば、無理な話です。
「空に浮かぶ雲のプール」には夢がある反面、「気温減率があるから寒いよな」とか、「落ちたら死んじゃうよな」とか、現実に目が覚める要素もあります。
しかも「タケコプターなしで雲まで行く」という無理難題をまずは越えなければいけません。軽率にうき水ガスを選ぶと、一度も使えずに終わってしまうでしょう。
というわけで、もしもドラえもんのひみつ道具を一つもらえるなら、うき水ガスの優先度は星
つです。